【質問】ドライシロップについて。用法に用時懸濁とだけ記載ある場合は、粉のまま服用できる患者だとしても必ず水に溶かしてから服用する必要があるのでしょうか。 テオフィリンDSのように顆粒のままでも服用できる旨が追加で記載のある薬もあるが、大半は用法が用時懸濁のみの記載の薬の方が多いかと思います。例えばイープラDSはメーカーQ&Aで粉のまま服用してもよいかという問いに対して用時懸濁してから服用するように回答があります。 また乳児ですすめられる服用法で、少量の水で薬団子を作る方法は用時懸濁の範疇なのでしょうか。
【回答】
日本薬局方の定義でもドライシロップは「用時に溶解または懸濁して用いる製剤」とされています。したがって、添付文書に「用時懸濁」等と記載されている薬剤は、服用直前に水などに混ぜて懸濁液として飲むことが原則です。粉末のまま飲み込める患者であっても、基本的には指示通り水に懸濁してから服用する必要があります。これは、有効成分の均一な吸収や安定性、服用時の安全性を確保するための措置です。実際、調剤時にあらかじめ水に溶かしてはいけない(服用時に懸濁させるべき)との注意が添付文書やインタビューフォームに明記されている例もあります
① 安定した吸収
ドライシロップを水に懸濁することで有効成分が均一に分散し、胃腸内での偏った吸収や局所刺激を防ぎます。粉のままだと一部に薬が集中し、副作用が出やすくなったり、吸収が不安定になることがあります。
② 味のマスキング
苦みのある薬には、主に苦味を弱める目的で香料・甘味を添加している物が多い。このコーティングは水に溶かすことで正しく機能します。粉のまま口の中で時間をかけて溶けると、苦味が出てしまい、特に小児では服薬拒否の原因にもなります。
③ 放出制御機能を保つ
テオフィリンDSなど一部のドライシロップには、薬をゆっくり放出するためのコーティング(徐放性)が施されています。粉のままでも飲めるとされている場合でも、「噛まずに飲む」ことが条件です。噛んだり、すり潰すと一気に薬が放出され、中毒の危険があります。
④ 安全性の観点からの制限
中には、粉のまま服用すると腸閉塞を起こす恐れのある薬(例:カリメート)もあり、必ず水に溶かす必要があります。
「薬団子」は「用時懸濁」に含まれる?
小児や乳幼児への投薬時に、粉薬にごく少量の水を加えて練り、団子状(ペースト状)にして与える方法があります。いわゆる「薬団子」です。これも「服用直前に水と混ぜている」ため、広い意味で用時懸濁の一種とみなしていいとかんがえられます。このように微量の水で練るだけでも、服用直前に混和している点で用時懸濁と原理は同じです。メーカー側も「水に完全に溶かさないといけない」とまで厳密に指示しているわけではなく、「直前に水に懸濁して飲ませる」ことが目的ですので、ペースト状にしてすぐ飲ませる方法は実践的な工夫として容認されています。以上の薬団子法は広義には用時懸濁と言えそうです。ただし、薬団子にする場合でも一度に飲み残しなく飲ませることや必要に応じて水で流し込むことが重要です。製剤によっては極端に水分が少ないと喉や消化管で膨らむ懸念があるものもあるため(カリメート等)、個々の薬剤特性に応じて薬剤師が判断・指導する必要があります。
メマンチン塩酸塩(メマリーDS 2%)
アルツハイマー型認知症治療薬。インタビューフォームに「本剤は服用直前に水に懸濁し速やかに服用するが、粉末のまま水とともに服用することもできる」と明記されています。さらに、粉末服用時と懸濁服用時(および錠剤服用時)の薬物動態が比較され、生物学的に同等であることが確認されています。粉末で飲んでも血中濃度推移に差がないことがデータで示されています。
ドネペジル塩酸塩(アリセプトDS 1%)
アルツハイマー型・レビー小体型認知症治療薬。添付文書の「適用上の注意」に「服用直前に水で懸濁し速やかに服用するが、粉末のまま水とともに服用することもできる」と記載されています。原則は用時懸濁ですが、粉末を水で流し込む方法でも服用可能であると公式に認められています。この製剤も、懸濁服用と粉末服用で薬物動態に大きな差がないデータが示されています。
テオフィリン徐放性DS(例:テオフィリンDS小児用20%「サワイ」)
添付文書では「通常は用時、水に懸濁して投与するが、顆粒のまま投与することもできる」と記載されています。ただし徐放製剤であるため、顆粒のまま投与する場合も決して噛まずに飲み込む必要があります
ボリコナゾール(ボリコナゾール顆粒20%「タカタ」)
深在性真菌症治療薬ボリコナゾールの小児用ドライシロップ(ブイフェンドの同成分)。メーカーの製品情報には「利便性向上を考慮した顆粒剤(室温保存、粉末のまま服用可能)」と記載されており、事前懸濁無しでそのまま服用できることが特徴とされていますt。実際、インタビューフォームにも「粉末のまま服用(事前の懸濁は不要)」と明記されており、水に懸濁せず直接飲んでも問題ない設計です。
用時懸濁としか記載されていない薬剤
イーケプラDS 50%
用法欄に「用時懸濁して経口投与する」とのみ記載され、粉末服用についての言及はありません。。実際、イーケプラDSのメーカーQ&Aでも「粉末のまま飲んでよいか」という問いに対し、「必ず用時に懸濁してから服用するように」との回答がなされています。したがって、特別の記載がないドライシロップ剤は原則として用時懸濁で服用するべきです。イーケプラDSのように「粉末のまま服用してよい」との公式データや記載がない製剤は、粉薬のまま飲むことは推奨されません。実際、イーケプラDSの場合、添付文書上も成人・小児とも「用時溶解して経口投与」としか書かれていないため、メーカーも粉末のままの服用は想定していません。
「用時懸濁」のみの記載しかないドライシロップ製剤は多数あり、基本的には記載通りに懸濁して服用する必要があります。メーカーから特別な言及がない限り、粉末のまま服用するのは避けるのが無難です。味や飲みやすさの観点でも、水に溶かさず口内で溶かすと苦味を強く感じるケースが多く、服薬コンプライアンスを損ねる可能性があります。
粉末での服用が禁忌(絶対に避けるべき)とされている製剤
カリメートドライシロップ92.59
カリメートドライシロップ92.59%の添付文書には、「1回量を水30~50 mLに懸濁し経口投与する」と規定されており、調剤時に水に懸濁しないこと(服用時に懸濁させること)が注意として示されています。またメーカー資料や指導箋等で「粉末のまま服用しないこと。必ず水に懸濁して服用すること」との注意喚起がされています。粉末のまま飲むと、薬剤が消化管内で膨れて腸閉塞を起こしたり、硬く固まって腸穿孔を招いたりするリスクがあります。実際、類似薬(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)の経口投与で消化管潰瘍・壊死や穿孔が報告されています。さらに、水無しで飲むと薬剤が急激に吸湿発熱し、口腔内に熱感・刺激を与えることも報告されています。
シルデナフィル(レバチオ懸濁用DS)
調剤時に薬局で一定濃度の懸濁液(シロップ)を調製し、患者にはその液剤を渡すことになっている特殊な製剤です。「粉末のまま服用しないでください。薬局で定められた方法でシロップ剤に調製してから服用してください」と患者向け指導資料にも明記されています。添付文書上も、懸濁用ドライシロップ剤のまま自己服用することは想定されておらず、調製されたシロップ剤として用いることになっています。