【質問】ブリィビアクト静注は15分以上かけて投与することは可能でしょ
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1. 結論
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原則2〜15分以内の投与を遵守し、延長は推奨されない。
2. 背景
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ブリビアクト静注(一般名 : ブリバラセタム)は、経口投与困難時や発作急性期に速やかな効果発現を期待して用いられる抗てんかん薬です。投与速度を遅くすれば副作用を減らせるのではないかとの疑問がありますが、添付文書で規定された2〜15分以内を超える緩徐投与は適応外使用となります。エビデンスに基づき適正な投与速度を守ることが、効果を最大化し安全性を確保する上で重要です。
3. ブリビアクト静注に関する報告
Klein et al (2016). ブリバラセタム静注製剤の第III相RCT。16〜70歳の難治性てんかん患者105例に2分間ボーラス静注 vs 15分間点滴静注(各200 mg/日, 1日2回×4.5日間)を比較。有害事象発現率はボーラス群71.2% vs 点滴群65.4%で有意差なく(リスク比 1.09, p=0.51)、重篤な有害事象はゼロでした。静脈注射に伴う局所反応もボーラス群9.6% vs 点滴群11.5%と差がなく、安全性は投与速度に依存しないことが示されています。(PMID: 27221208)
Yamamoto et al (2022) 健康成人24例対象のクロスオーバーRCT。100 mgのブリバラセタムを静脈内ボーラス(2分以内)、15分間静注、経口投与でそれぞれ単回投与し薬物動態を比較。全身曝露量(AUC)は経口と静注で生物学的同等性が確認され投与経路間で差がなかった一方、Cmax(最高血中濃度)は経口投与比でボーラス静注群で約1.8倍、15分静注群で約1.5倍と上昇しました。いずれの投与法でも重篤な副作用なく忍容性良好で、健康成人で2分静注が可能な安全域が裏付けられました。(PMID: 35293287)
Farkas et al (2022) 小児てんかん患者50例を対象とした多施設オープン試験。年齢1か月〜15歳の小児に15分静注または2分以内ボーラス静注でブリバラセタム(最大5 mg/kg/日, 200 mg/日上限)を投与。有害事象発現率は全体で28.0%(15分群30.8% vs ボーラス群25.0%)と群間差は乏しく、主な有害事象は傾眠6.0%のみ。治療関連有害事象も15分群23.1% vs ボーラス群16.7%と差はなく、中止例や重篤例はゼロでした。小児においても迅速投与の安全性が示されています。(PMID: 35196395)
4. 関連した質問
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Q: ブリビアクト静注はどのくらいの時間で投与するのが推奨されていますか?
A: 日本の添付文書(2020年改訂)では「1回量を2〜15分で静脈内投与する」と明記されており、米国FDA承認も静注2〜15分までを許容しています。欧州EMAに至っては希釈せず直接ボーラス静注も公式に容認しており、各国規制当局とも15分以内の迅速投与で安全と判断しています。したがって15分超の投与は承認範囲外となります。 -
Q: 15分以上かけてゆっくり静注すれば副作用が減りますか?
A: いいえ。現時点で15分を超える投与を検証した試験は皆無であり、投与速度を遅くすることで安全性が向上するエビデンスはありません。【Klein 2016】のRCTでも2分ボーラス投与と15分投与で有害事象発現率に差はなく、傾眠やめまい等の頻度も同等でした。また各国も「速い投与でも安全」と判断しており(欧州ではボーラス静注を許容)、より遅い投与を推奨する動きはありません。 -
Q: 投与速度によってブリビアクトの効果発現に違いはありますか?
A: 可能性があります。理論上、投与時間を延長すればCmax(血中ピーク濃度)がより低くなりTmax(最高濃度到達時間)が遅延します。実際、健常者試験では100mgボーラス静注時のCmaxは15分静注時より約20%高値で、薬物曝露量(AUC)は両群同等でした。すなわちゆっくり投与すると初期の有効血中濃度到達が遅れうることを示唆します。急性期に速やかな効果発現を狙うブリビアクト静注の利点が、必要以上に遅い投与で損なわれる可能性があります。
5. まとめ
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ブリビアクト静注は原則2〜15分以内で投与する(国内外の承認範囲内に遵守)。
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15分超の延長投与は適応外となり、効果・安全性の追加メリットを支持するエビデンスはない。
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2分程度の迅速静注でも安全性に問題はなく(傾眠・めまい等の頻度は変わらない)、急性期は速やかな投与で効果発現を得ることが重要。
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どうしても15分超へ延長せざるを得ない場合は適応外使用であることを認識し、主治医の責任下でリスク・ベネフィット評価と院内手続きを十分に行った上で実施する。
6. 参考文献
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Klein P, et al. Safety and tolerability of adjunctive brivaracetam as intravenous infusion or bolus in patients with epilepsy. Epilepsia. 2016;57(7):1130-1138.
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Yamamoto J, et al. Bioavailability, safety and tolerability of intravenous brivaracetam in healthy Japanese participants. Xenobiotica. 2022;52(2):146-151.
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Farkas MK, et al. Pharmacokinetics, safety, and tolerability of intravenous brivaracetam in pediatric patients with epilepsy: An open-label trial. Epilepsia. 2022;63(4):855-864.
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Briviact (brivaracetam) injection [Prescribing Information]. UCB, Inc.; Revised 2021. (Accessed via FDA Drugs@FDA) PubMed
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Briviact 10 mg/mL solution for injection/infusion [Summary of Product Characteristics]. European Medicines Agency; Revised 2022. (Accessed Jul 2025 via EMC UK)
7. 更新履歴
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初版:2025-07-19
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最新更新:2025-07-19
8. 本文
ブリィビアクト静注の投与時間について整理すると、まず国内の電子添付文書には「1回量を2-15分で静脈内投与する」と明確に記載されており、15分を超えるゆっくりした投与は適応外使用に当たります。臨床試験、市販後調査、規制当局資料を詳細に調べても15分超投与を検証したデータはなく、2分ボーラスでも十分な安全性が確立しているため、追加の研究自体が行われていません。
理論上、投与時間を延長すれば血中最高濃度(Cmax)がさらに低下し到達時間(tmax)が遅れます。これは発作抑制までの時間を引き延ばし、ブリィビアクト静注が本来持つ「急性期に速やかに効く」という利点を減弱させる可能性があります。一方、安全性については2分ボーラスであっても傾眠やめまいなどの頻度は15分点滴と変わらず、時間を延ばすことで安全性がさらに向上する根拠は示されていません。
海外でも、日本と米国は2-15分で承認し、欧州は希釈せずにボーラス投与も正式に容認しています。いずれの規制当局も「速い投与でも安全」と判断しており、「より遅い投与」を推奨する動きはありません。文献や学会報告、施設プロトコルを検索しても15分超で投与した事例は見当たらず、臨床現場では2〜15分(多くはボーラスまたは迅速点滴)が標準的に用いられています。
結論として、物理的には滴下速度を落とせば15分を超える投与も可能ですが、これは承認範囲外であり、有効性・安全性の両面で追加メリットを示すエビデンスはありません。むしろ作用発現遅延による有効性低下が懸念されるため、原則として15分以内の投与を遵守することが推奨されます。どうしても延長投与を検討する場合は、適応外使用として医師の責任下で十分なリスク・ベネフィット評価を行うことが必要です。。