ループ利尿薬の併用目的・用量設定・降圧効果は?

【質問】 ループ利尿薬の使い分けについて。フロセミド+アゾセミド/フロセミド+トラセミド、時に3剤の併用を見かけます。どのような目的で併用しているのでしょうか?用量設定の目安は?また、降圧効果の比較も教えてください。

ビジュアル回答はこちら → https://closedi.jp/vshare/34397/

結論
一般的には ①ループ単剤で用量最適化 → ②長時間作用型への切替検討 → ③異なる機序(サイアザイド系、トルバプタン、アセタゾラミド)追加 の順です。ループ×ループの長期併用は推奨されず、切替時の短期重複や切れ目の補完など限定的に用いるにとどめます[1][2]。国内の経口力価換算目安はフロセミド20 mg=アゾセミド30mg=トラセミド4mgです[3]。トラセミドがフロセミドより予後を改善する明確なRCT証拠はありません(TRANSFORM‑HF)[5]。


背景・薬理

  • フロセミド:経口バイオアベイラビリティ(BA)のばらつきが大きく(IF記載で概ね約51%)、作用時間が短い[13]。

  • トラセミド:BAが高く持続時間が長い。

  • アゾセミド:長時間作用型として用いられる。BAは数値が明確に示されていない[13]。

  • フロセミドなどの短時間作用型ループ利尿薬は、効果消失後にナトリウム再吸収が亢進し、午後から夕方にかけて体液が再貯留しやすい特徴があります。この再貯留現象を回避する目的で、薬物動態的に持続作用を有するトラセミドやアゾセミドへの切り替えを検討します。
    一方で、長時間作用型ループ利尿薬が日内血圧変動を平滑化する可能性は薬理学的には推測されるものの、これを裏付ける大規模ランダム化比較試験のエビデンスは限定的です。[15][16]。
    (ガイドライン総論は[1][2]を参照。)


主要エビデンス

  • J‑MELODIC:慢性心不全患者を対象とした J-MELODIC 試験では、アゾセミド群がフロセミド群に比べ、心血管死および心不全再入院の複合エンドポイントを有意に減少させました(HR 0.55, 95% CI 0.32–0.95)[4]。ただし、本試験は中規模かつオープンラベルで実施されたため、バイアスの影響や外的妥当性の限界を考慮する必要があります。

  • WET‑HF:日本の多施設観察研究で、退院後に長時間作用型ループ利尿薬を使用した症例では、フロセミド主体の短時間作用型に比べて転帰が良好である関連が示されました。解析ではフロセミド20mg=アゾセミド30mg=トラセミド4mgの換算比を用いています[3]。ただし、観察研究であるため交絡の影響を排除できず、因果関係を断定することはできません。

  • TRANSFORM‑HF:米国の大規模RCTにおいて、トラセミドとフロセミドを比較したところ、全死亡率には有意差が認められませんでした(HR 1.02, 95% CI 0.89–1.18)[5]。したがって、長時間作用型による明確な予後改善効果はエビデンスとして確立されていません。

  • ADVOR:急性心不全入院例(ADHF)を対象に、標準ループ利尿薬に静注アセタゾラミド500 mgを追加すると、48–72時間以内に十分な除水を達成した患者の割合が有意に増加しました(42.2% vs 30.5%)。さらに、在院日数も短縮されました(中央値 8.8日 vs 9.9日)[6]。長期予後改善のデータは得られていない点に注意が必要です。

  • 尿中ナトリウムガイドライン:急性期の利尿反応性評価として、投与2時間後の尿中ナトリウム濃度が有用とされ、ENACT-HF試験では>50 mmol/L、PUSH-AHF試験では≥70 mmol/Lが十分な反応の目安として採用されています[11]。ただし、これらは入院下ADHFを対象とした試験データであり、外来維持療法への直接的な一般化は慎重であるべきとされています。


使い分け/併用の目的と用量目安

1) ループ利尿薬同士の併用が生じる場面

ループ利尿薬の長期併用は標準的治療に含まれず推奨されません。ただし、以下のような限定的状況では併用が一時的に用いられることがあります:

  • 薬剤切替時の短期重複:薬物動態の差による利尿効果の「谷間」を回避する目的

  • 短時間作用型の切れ目補完:フロセミドの効果切れに伴う再貯留を長時間作用型でカバー
    いずれも短期的にとどめ、速やかに単剤へ整理することが望まれます[1][2]。


2) 用量設定(外来~入院での実務)

  • 国内の経口力価換算:フロセミド20mg=アゾセミド30mg=トラセミド4mg[3]。

  • 海外換算例:フロセミド40 mg=トラセミド20 mg=ブメタニド1 mg(経口)[12]。

  • 急性期静注導入:自宅での経口総量の1.0〜2.5倍を目安にIVで開始し、2時間後に尿量(≥100–150 mL/時)や尿中Na(>50–70 mmol/L)を評価。反応不十分であれば倍量投与または異なる機序の追加を検討します[10][11]。

  • 反応不十分時の追加薬:サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド、メトラゾン※国内未承認)が標準[2]。必要に応じてトルバプタンや(入院下での)アセタゾラミド静注も選択肢となります[6][7][8]。


3) 降圧効果の比較

  • ループ利尿薬は高血圧の第一選択薬ではなく、腎機能低下(eGFR <30 mL/min/1.73m²)や浮腫合併例に限定して用いられます[15][16]。

  • 等力価での降圧効果の差は小さく、主にナトリウム排泄量に依存します。

  • 長時間作用型は日内の利尿効果が持続するため血圧変動を平滑化する可能性が理論的には期待されますが、直接比較RCTによる降圧エビデンスは限定的であり、現時点では薬理学的推定の域を出ません[15][16]。

 


引用文献

  1. JCS/JHFS 2025 心不全診療ガイドライン(DOI: 10.1253/circj.CJ‑25‑0002)

  2. Heidenreich PA, et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of HF. Circulation. 2022.

  3. Imaeda S, et al. WET‑HF Registry. ESC Heart Fail. 2022;9:2967‑2977

  4. Masuyama T, et al. J‑MELODIC. Circ J. 2012;76:833‑842.

  5. Mentz RJ, et al. TRANSFORM‑HF. JAMA. 2023;329:214‑223.

  6. Mullens W, et al. ADVOR. N Engl J Med. 2022;387:1185‑1195.

  7. PMDA「アセタゾラミド/アセタゾラミドNaの使用上の注意改訂について

  8. PMDA トルバプタン(サムスカ)通知/RMP(心不全における体液貯留、15 mg 1日1回)

  9. DSU No.336(2025年5月)ほか:サイアザイド系の眼有害事象追記(各社改訂通知)

  10. Felker GM, et al. DOSE Trial. N Engl J Med. 2011;364:797‑805.

  11. Siddiqi HK, et al. Urine sodium–guided diuresis(レビュー、ENACT‑HF/PUSH‑AHF閾値)Heart Fail Rev. 2024

  12. Michigan Medicine Inpatient Diuretic Guideline

  13. フロセミドIF(日医工):BA約51%の記載等(PDF)

  14. JCS 2023 冠動脈疾患一次予防GL:サイアザイドはeGFR≥30で推奨と明記(=eGFR低下例でループの出番

  15. JSH 2019 高血圧治療GL(最新JSH2025速報も参照)

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