【質問】 シングリックス筋注用の投与間隔について調べています。添付文書では、通常の方は初回と2回目の接種間隔が2か月、「帯状疱疹にかかりやすい18歳以上の方」の場合は1か月まで短縮できるとなっています。短縮できるのであれば、通常の方でも1~2か月の間隔で良いのではないかと思い、質問しました。初回と2回目の接種間隔を2か月とした理由や根拠について教えてください。
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1. 結論
通常 (健康)の方は「初回から2か月後」が標準的な接種間隔です。遅れた場合、健康な方も高リスクの方も6か月以内に2回目を完了させます(日本の添付文書)。1か月への短縮は適応外です(短縮できるのは高リスクの18歳以上の方のみ)。
標準間隔の根拠は、主要な臨床試験(ZOE-50/70試験)で2か月間隔で接種した際に、高いワクチン効果(50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%)が証明されたためです。6か月間隔でも免疫効果は劣りませんが、12か月間隔では効果が劣ることが分かっています。
2. 背景
帯状疱疹は年齢とともに増える病気で、日本の大規模研究では50歳以上で年間1,000人あたり10.9人が発症します。帯状疱疹後神経痛は患者さんの19.7%(80代では32.9%)に起こります。重症化や長期の痛みで生活の質が下がるため、2回接種を完了することが非常に重要です。
3. 報告
ガイドライン・規制文書
1) PMDA添付文書(2025年改訂) 標準2か月間隔、6か月以内に完了。高リスクの18歳以上は1~2か月に短縮可能と明記されています。
2) PMDA審査報告書(2023年) 2か月間隔は主要試験の設計。高リスク者で1~2か月に設定したのは「短縮により利益が得られる場合」との記載があります。
4) アメリカCDC/ACIPガイドライン(2025年) 健康な方:2~6か月。免疫が低下している方では1~2か月へ短縮可能。4週間未満での投与は無効で再接種が必要、6か月を超えても最初からやり直す必要はありません。
研究論文
3) Lal H, et al.(2018年) 6か月間隔は2か月間隔と比べて免疫効果は劣らない、12か月間隔では劣ることが証明されました。
5) Lal H, et al.(2015年、ZOE-50試験) 50歳以上で2か月間隔接種により、ワクチン効果97.2%を達成。
6) Cunningham AL, et al.(2016年、ZOE-70試験) 70歳以上で2か月間隔接種により、ワクチン効果89.8%、神経痛予防効果88.8%を達成。
7) Bastidas A, et al.(2019年、造血幹細胞移植患者) 造血幹細胞移植後1~2か月間隔で2回接種し、ワクチン効果68.2%。
8) FDA審査資料(2017年) 特異的な免疫細胞(CD4 T細胞)は2回目接種の1か月後にピークに達します。
9) EMA(2020年) 免疫が低下している方でも、2か月後のワクチン反応率は83.7~92.9%と高い値を示しました。
10) Strezova A, et al.(2025年、長期追跡調査最終報告) 接種完了1か月後から試験終了までのワクチン効果87.7%、11年目でも82.0%の効果を維持。
4. Q&A
Q: 健康な人でも1か月間隔に短縮できますか?
A: できません(適応外)。日本の添付文書では標準2か月、短縮は高リスクの18歳以上に限られます。
Q: 2か月を超えて遅れた場合はどうすればいいですか?
A: 6か月以内に完了させてください。6か月間隔までは効果は劣りませんが、12か月間隔では効果が落ちるため、6か月を超える遅延は避けてください。アメリカのガイドラインでは最初からやり直す必要はないとされています。
Q: 免疫抑制治療が始まるため早く接種を完了したい場合は?
A: 免疫が低下している方は1~2か月へ短縮可能です。強い免疫抑制期を避け、可能なら治療開始前に完了を検討してください。
Q: 2回接種で免疫がつくタイミングは?
A: 細胞性免疫は2回目接種の1か月後にピークに達します。免疫が低下している方でも2か月後には80~90%台の反応率が得られます。
5. まとめ(実践的なポイント)
- 健康な方:初回から2か月後に2回目を接種。遅れても6か月以内に必ず完了させる(高リスクの方も同様に6か月以内)
- 高リスクの方(免疫低下):治療計画に合わせて1~2か月へ短縮を検討(例:化学療法・移植の前後)
- 遅延時の対応:6か月間隔までは効果は維持されるが、12か月間隔は避ける
- 免疫獲得:2回目接種の1か月後に免疫のピークに到達
- やってはいけないこと:健康な方で意図的に1か月へ短縮/12か月の遅延を容認(どちらも推奨されません)
6. 引用文献(本文内番号)
- シングリックス筋注用 添付文書
- PMDA 審査報告書
- Lal H, et al. Vaccine. 2018;36:148-154
- CDC. Clinical Considerations for Shingrix in Immunocompromised Adults
- Lal H, et al. N Engl J Med. 2015;372:2087-96
- Cunningham AL, et al. N Engl J Med. 2016;375:1019-32
- Bastidas A, et al. JAMA. 2019;322:123-133
- FDA. Clinical Review (BLA) SHINGRIX(2017)
- EMA. CHMP Variation Assessment for IC(2020)
- Strezova A, et al. EClinicalMedicine. 2025;83:103241
- 帯状疱疹ワクチン ファクトシート 第2版
7. 本文
日本での適応と用法は、健康な方は初回から2か月後(標準)が基本です。遅れた場合は、健康な方も高リスクの方も6か月以内に2回目を完了することが推奨されています。高リスクの方(免疫不全や免疫抑制治療の予定・実施中など)で18歳以上では1~2か月へ短縮可能です。
この設定は、主要な臨床試験が2か月間隔の設計で高いワクチン効果(50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%)を示したこと、免疫が低下している方では早期の免疫獲得が臨床的に重要で、短縮により利益が見込めるためです。
免疫原性の研究では、6か月間隔が2か月間隔と比べて効果が劣らない(抗体価で評価)一方、12か月間隔では劣ることが示され、12か月の遅延は避けるのが妥当です。
免疫学的には、特異的な免疫細胞(gE特異CD4 T細胞)は2回目接種の1か月後にピークに到達し、その後も基準を上回って持続します(免疫低下者でも2か月後の反応率が80~90%台)。
長期有効性は、接種完了1か月後から試験終了までの全期間でワクチン効果87.7%、11年目の単年効果は82.0%と報告され、追加接種の必要性はまだ検討段階です。
実務では、健康な方への1か月短縮は適応外であり、遅れても6か月以内に完了させます。免疫低下者では治療計画に合わせて1~2か月を選択し、アメリカのガイドラインでは「4週間未満は再接種・6か月超えてもやり直し不要」となっています。