【質問】
アルコール(飲酒)と相互作用の記載がない薬剤について
併用注意や禁忌にアルコールが明記されている薬剤は対応方針を立てやすい一方、添付文書に特記がない場合はどのように指導すべきでしょうか。
① 服薬中は一律禁酒を推奨
② 作用機序によっては禁酒を推奨(中枢神経作用、血管拡張など)
③ 薬によっては服薬スキップを推奨(定期コントロール薬ではない等)
④ 飲酒量によって②や③を推奨
⑤ 疾患によってはそもそも禁酒を推奨
⑥ 特に制限も指導もしない(話題にしない)
⑦ その他
ビジュアル回答 https://closedi.jp/vshare/37658367538
結論
薬物療法における飲酒管理は、一律禁酒(①)や沈黙(⑥)ではなく、飲酒量(④)× 薬理機序(②)× 基礎疾患(⑤)による層別化で対応します。高リスク薬に分類される中枢抑制薬(ベンゾジアゼピン系薬・オピオイド・第1世代抗ヒスタミン薬)、NSAIDs、強い血管拡張薬(硝酸薬・PDE5阻害薬)、肝毒性薬、低血糖を起こす薬については、禁酒を強く推奨します。抗凝固薬(ワルファリン)については禁酒も有力な選択肢ですが、飲酒する場合は少量・一定量を厳守し、摂取量に変化があれば早期にINRを再検査する必要があります。
また、Heavy episodic drinking(HED:純アルコール≥60g/回・過去30日で≥1回)に該当する場合は、薬剤の種類に関わらず禁酒を強く推奨します。
一方、低リスク薬については、少量摂取・食事との同時摂取・服薬との時間分離によるリスク最小化を基本とします。
背景
飲酒は薬効・薬物動態に影響し、転倒・交通事故・致死的過量のリスクを高めます。米国データでは、飲酒者の約40%が相互作用の可能性がある薬を使用していると報告されています。ベンゾジアゼピン/オピオイドとアルコールは低用量でも呼吸抑制・死亡リスクを増加させ、NSAIDs+アルコールは1杯/日でも上部消化管出血(UGIB)リスク増が示されています。国内の男性40 g/日、女性20 g/日は「安全量」ではなく政策上の目安であり、原則は少ないほどリスクは低いです。
報告
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NIAAA Core Resource on Alcohol(2024)
アルコールは薬物代謝・薬効・血中濃度に影響。特に中枢抑制薬(ベンゾジアゼピン系、オピオイド、第1世代抗ヒスタミン)との併用で転倒・事故・致死的過量が増加。アセトアミノフェンは慢性多量飲酒でCYP2E1誘導によりNAPQI産生が増え、肝障害リスクが上昇。ワルファリン使用者では大出血リスクも上昇。添付文書と相互作用チェックツールの活用を推奨。 -
厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024)
純アルコール量=容量×度数×0.8。例:ビール500 mL(5%)=20 g。飲酒量が少ないほどリスクは低いと明示。生活習慣病リスクを高める飲酒量の目安(男性40 g/日、女性20 g/日)など、日本人向け換算を提示。 -
POSAMINO基準(BMJ Open 2017)
高齢者の「潜在的に重大なアルコール‐薬物相互作用」38項目を専門家合意で提示。中枢抑制薬、NSAIDs、ワルファリン、硝酸薬/血管拡張薬、糖尿病治療薬、肝毒性薬などで、飲酒に応じた注意を整理。スクリーニングと介入の優先順位付けに有用。 -
無作為化試験:第1世代抗ヒスタミン×アルコール(Weiler JM, et al., 2000)
ランダム化クロスオーバー試験。経口ジフェンヒドラミン50 mgは、0.1%血中アルコール濃度相当のアルコールより運転パフォーマンスを強く低下させ、中枢抑制薬とアルコールの相乗効果を定量的に示した(PMID: 10691585)。
関連した質問
Q: 添付文書にアルコール記載がない薬で、少量の飲酒は許容できますか。
A: 低リスク薬では、食事と一緒に10–20 g程度の少量でも個別評価が前提です。厚労省は安全量を定めておらず、「少ないほどリスクは低い」という立場です。高齢・多剤併用・肝腎疾患の既往がある場合は、より厳格に対応します。
Q: どの薬なら「飲む日はスキップ」させるべきですか。
A: 頓用の中枢抑制薬(入眠薬/Z薬、第1世代抗ヒスタミン、鎮咳薬中のコデイン、筋弛緩薬など)は飲酒予定日は原則スキップ。運転・転倒リスクのある患者では特に徹底します。
Q: PDE5阻害薬(シルデナフィル/タダラフィル)と飲酒は。
A: 血圧低下が相加的に生じます。タダラフィルは0.7 g/kg併用で起立性低血圧例・血圧低下が報告されています。
Q: NSAIDsやアスピリンと飲酒は。
A: 定期内服・高用量・HED・潰瘍既往・抗凝固/抗血小板併用では禁酒を推奨。必要時は最小量・最短期間+必要に応じPPI併用を検討します。
まとめ
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飲酒歴は必ず聴取(頻度・1回量・HEDの有無)。≥60 g/回は高リスク。
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高リスク薬は禁酒:中枢抑制薬/ワルファリン/NSAIDs/強い血管拡張薬/肝毒性薬/低血糖を起こす薬。
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頓用中枢抑制薬は飲酒日はスキップ。定期薬は自己中止を避け、事前に代替・減量計画を立てる。
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患者教育は純アルコール量で伝える(例:ビール500 mL〔5%〕=20 g)。基本原則は「少ないほど安全」。