レボチロキシン内服中。内分泌負荷試験前にどのくらい休薬すればいいか?

【質問】チラーヂン錠についてご教示ください。近隣病院のDrから、内分泌負荷試験を考えているが毎日服用しているチラーヂン(37.5μg/day)は中断後どのくらい時間をあければ影響がなくなるかとの問い合わせを頂きました添付文書やインタビューフォームではこれといった情報を得られなかったのでなにか参考になりうるデータ等ございましたら教えていただきたいです。


ビジュアル回答はこちら → https://closedi.jp/vshare/463862/

1. 結論

甲状腺に関する検査(放射性ヨードを使った検査、サイログロブリン刺激試験、甲状腺機能評価など)では、
方法A:チラーヂンLT4 を3–4週間休薬
方法B:チロナミン(T3製剤)に変更してから2週間休薬
が標準的な方法です。

目標となるTSH値は≥30 mIU/Lが目安です(絶対的な基準値ではありません)。場合によってrhTSH(人工的なTSH製剤)を使用することもあります。甲状腺以外のホルモン検査(成長ホルモン・副腎皮質ホルモンなど)では休薬せずに実施し、甲状腺機能を正常に保ちます。検査後はチラーヂンをすぐに再開し、TSH値の再確認は6–8週後が目安です。


2. 背景

甲状腺ホルモンの薬は様々な内分泌検査に影響を与えます。放射性ヨードやサイログロブリン刺激試験は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が高い状態で正確性が向上するため、TSHを上昇させることが必要です。反対に、甲状腺機能が低下した状態では成長ホルモンや副腎皮質ホルモンの反応がよくないため、甲状腺以外の検査は正確な結果が得られません。チラーヂンの半減期は約6–7日(甲状腺機能低下症の患者では9–10日)で、薬の量を変更してからTSHが安定するまで6–8週間かかるため、検査スケジュールと再評価のタイミングが重要です。


3. 報告

① アメリカ甲状腺学会(ATA)2015/2016

  • 休薬期間: LT4休薬3-4週 または LT3休薬2週
  • TSH目標: >30 mIU/L(一般的運用目安、エビデンスは限定的)
  • 手順: 投与前TSH測定を推奨

参考文献:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4739132/ ATA 2015/2016 B38の項


② ヨーロッパ甲状腺学会(ETA)2022

  • TSH基準: >30 mU/Lは経験的基準で絶対値ではない
  • 選択肢: LT4 3-4週休薬 または LT4→LT3切り替え後休薬、rhTSH使用
  • 配慮: QOL(生活の質)への配慮を記載

参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34981741/ Eur Thyroid J 2022 Recommendation 5の項


③ 日本の指針

  • 標準的手順: LT4 4週間以上前に中止、LT3 2週間前に中止、低ヨウ素食2週間
  • TSH目標: ≥30 μU/mLが望ましい

参考文献:https://oncology.jsnm.org/sites/default/files/pdf/thyroid-guideline_2018-06.pdf JSNM 2018 P1

https://www.japanthyroid.jp/doctor/img/I-131_4.pdf 日本甲状腺学会 実施要綱  1.2.2 治療の進め方


4. 関連した質問

Q1:3週間休薬してもTSHが30 mIU/Lに達しない場合は?
A:休薬期間をさらに延長するか、人工TSH製剤の併用を検討します。TSHは薬を投与する1–3日前に確認する。

Q2:インスリン負荷試験(成長ホルモン・副腎皮質ホルモンを調べる検査)など甲状腺以外の負荷試験の時は?
A:チラーヂンLT4 を休薬せず、甲状腺機能が正常な状態で検査するのが望ましい。甲状腺機能が低下していると成長ホルモンの反応が実際より低く出る可能性がある。

Q4:検査後の薬の再開とその後の経過観察は?
A:チラーヂンLT4は検査終了後すぐに再開する。TSH/FT4の値は6–8週間後に再確認する。


5. まとめ

  • TSHを上昇させる必要がある検査:チラーヂン(LT4)を3–4週間休薬またはチロナミンに変更後2週間休薬し、TSH≥30 mIU/Lを運用の目安とする
  • 目標値に達しない時は期間延長や人工TSH製剤を検討し、薬を投与する直前にTSH値を確認する。
  • 甲状腺以外のホルモン検査は休薬せず甲状腺機能正常状態で実施する。甲状腺機能低下状態での検査は避ける
  • 検査後はすぐにチラーヂン(LT4)を再開し、6–8週間後にTSH/FT4を再評価する。

6. 参考文献

国際ガイドライン

・ATA 2015/2016: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4739132/
・ETA 2022: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34981741/
・SNMMI/EANM 2022: https://jnm.snmjournals.org/content/63/6/15N

日本のガイドライン

・JSNM 2018: https://oncology.jsnm.org/sites/default/files/pdf/thyroid-guideline_2018-06.pdf
・日本甲状腺学会 https://www.japanthyroid.jp/doctor/img/I-131_4.pdf

負荷試験関連

MFT ITT: https://mft.nhs.uk/app/uploads/2023/03/Insulin-Tolerance-test-Adults.pdf Front Endocrinol 2021:https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology/articles/10.3389/fendo.2021.678778/full


7. 更新履歴

初版:2025-08-24 最新更新:2025-08-24


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