【質問】脳梗塞時のエダラボン点滴静注の最近のエビデンスについて教えてください。以前は添付文書に記載されている14日上限まで投与する症例が多かったのですが、最近は2~3日など数日で終了する症例を見掛けることが多くなりました(腎機能障害や血算異常はありません)。中止する判断基準などがあるのか、最近の使い方についてご教示頂けますと幸いです。
1. 結論
「14日間のフル投与」が必須と断言できる根拠も、「2~3日で十分」と断言できる根拠も、現時点では存在しません。添付文書の記載は「発症後24時間以内に開始し、投与期間は14日以内」が基本です。そのうえで「症状に応じてより短期間で投与を終了することも考慮すること」とも明記されています (1)。日本の脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)ではエダラボン投与は推奨グレードBとされていますが (2)、「NIHSS何点改善で中止」といった具体的な中止基準は、添付文書にも治療ガイドラインにも示されていません。短期終了は「添付文書が許容する裁量」ではありますが、「エビデンスで確立された標準」とは言えない状況です。
2. 背景
エダラボンは日本の急性期脳梗塞治療で広く使用されてきました。全国レジストリ(Japan Stroke Data Bank、2001~2013年)の解析によれば、日本では虚血性脳卒中患者の約半数が急性期にエダラボンの投与を受けていたと報告されています (5)。承認時の主要RCTは14日間投与で設計されており (3)、「14日以内」が投与上限として定着してきた経緯があります。
ただし、その効果には議論があります。同レジストリの解析では、エダラボン群と非投与群のNIHSS改善差(脳卒中の神経学的重症度を評価するスケールです)は全病型で1点未満にとどまりました (5)。ここは意外かもしれませんが、海外のAHA/ASAガイドライン(2019年)では脳保護薬全般について「推奨しない(Class III: No Benefit、LOE A)」と明記されています (7)。
3. 報告
(1) エダラボン添付文書(PMDA電子添文)
用法は「成人30mgを適当量の生理食塩液等で用時希釈し30分かけて1日朝夕2回の点滴静注、発症後24時間以内に開始し投与期間は14日以内」です。重要な基本的注意(8.4項)に「症状に応じてより短期間で投与を終了することも考慮すること」と記載されています。重大な副作用として急性腎障害(0.26%)、肝機能障害(0.24%)、血小板減少(0.08%)、DIC(0.08%)などが報告されています。添付文書は「短期終了の考慮」と「中止すべき有害事象」を示していますが、NIHSSや日数を根拠とした停止ルールは明記されていません。
(2) 脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)/ 日本脳卒中学会
脳保護療法としてのエダラボン投与は推奨グレードBとされています。発症24時間以内の脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症)に対して30mg×2回/日を投与することが妥当とされていますが、投与期間の短縮に関する具体的な推奨は示されていません。
(3) Edaravone Acute Infarction Study Group(2003年)/ 多施設二重盲検RCT
エダラボン30mg×2回/日を14日間投与し、3か月時点または退院時のmRS(modified Rankin Scale)(脳卒中後の日常生活の自立度を7段階で評価するスケール)を主要評価とした試験です。252例登録、各群125例の解析で、mRSの有意な改善が報告されました(p=0.0382)。承認の根拠となった主要RCTが14日間投与で設計されていた点は、現在の「14日以内」という添付文書記載の根拠となりました。(PMID: 12715790)
(4) Naritomi H, et al.(2010年)/ ランダム化パイロットRCT(MARVELOUS試験)
虚血性脳卒中47例を「3日投与群」と「10~14日投与群」に割り付け、追跡完了は41例でした。主要評価項目は筋萎縮(大腿周径)と10m最大歩行速度で、いずれも10~14日群が有意に良好でした(麻痺側筋萎縮:3.6±5.9% vs 8.3±5.2%、p<0.01 / 10m歩行速度:98±67 vs 54±55 cm/sec、p<0.05)。臨床で遭遇しやすい場面ですが、この試験の主要アウトカムはあくまで筋萎縮と歩行速度であり、「3日で神経学的転帰が十分」であることを証明した試験ではありません。「廃用性筋萎縮の抑制」という観点からは長期投与の優位性を示した結果です。(PMID: 20945946)
(5) Kobayashi S, et al.(2019年)/ Japan Stroke Data Bank 後方視的(IPTW)解析
61,048例を対象に入院中のΔNIHSS(入院時NIHSSと退院時(または評価時点)NIHSSの差)を評価しました。エダラボン群は非投与群よりΔNIHSSの改善が大きかったものの、その差はアテローム血栓性 −0.46、心原性 −0.64、ラクナ −0.25と全病型で1点未満にとどまり、臨床的意義は限定的と結論づけられています。(PMID: 31164072)
(6) Chen C, et al.(2021年)/ RCTメタ解析(治療期間サブグループ解析)
3か月時点の神経学的改善を統合し、治療期間でサブグループ解析を行っています。2週間投与(RR 1.42、95%CI 1.10-1.83)と1週間投与(RR 1.64、95%CI 1.24-2.16)のいずれも有意で、信頼区間は重複していました。ただしこれは試験間のサブグループ解析であり、同一試験内で1週間 vs 2週間を直接比較した結果ではないため、「短期が同等以上」とは断言できません。(PMID: 33638896)
(7) AHA/ASA急性虚血性脳卒中ガイドライン(2019年update)
「脳保護作用が想定される薬物・非薬物治療は推奨されない(Class III: No Benefit、LOE A)」と明記されています。エダラボンを名指ししたものではありませんが、脳保護薬全般を対象とした評価です。(PMID: 31662037)
(8) PMDA RMP関連資料(エダラボン製剤)
急性腎障害は投与4日目をピークに投与開始初期に多く発現するとされています。検査値の急激な悪化および複数の臓器障害も投与初期に集中しやすいことから、投与前または投与開始後速やかに腎機能検査・肝機能検査・血液検査を実施し、投与中も頻回に検査を行うことが求められています。
(9) 【海外動向】Fu Y, et al.(2024年)/ TASTE-SL試験(第III相RCT、中国)
エダラボンデキスボルノール舌下錠(914例)の試験で、90日mRS 0~1の割合は実薬群64.4% vs プラセボ群54.7%(OR 1.50、95%CI 1.15-1.95、P=0.003)と有意差が報告されました。従来のエダラボン単剤ではなく、デキスボルノール(抗炎症成分)との配合剤であり、日本では未承認の剤形です。(PMID: 38372981)
(10) 【海外動向】エダラボンデキスボルノール 血栓回収後上乗せ(第II相RCT)
血栓回収術後に十分な再灌流が得られた患者200例を対象に、エダラボンデキスボルノール静注(37.5mg×2回/日、12日間)の上乗せ効果を評価しました。主要評価項目の90日mRS 0~2は58.7% vs 52.1%(OR 1.37、P=0.29)で有意差なしでした。(PMID: 40064868)
4. 短期終了(2~3日)の実臨床背景
添付文書8.4項が短期終了を許容していることは事実です。また急性腎障害が投与4日目をピークに投与初期に集中するというデータ (8) は、「副作用リスク回避のための早期終了」という判断に一定の合理性を与えています。
さらに、DPC/PDPS(包括医療費支払制度)のもとでは投薬・注射は原則として包括評価の対象であり、出来高算定できない注射薬の長期投与は病院経営上のコスト負担となり得ます。この制度的構造が投与期間の短縮を後押ししている可能性は否定できませんが、これが実際の投与期間短縮と因果関係があるかを一般化するには別途データが必要です。
5. 関連した質問
Q: 腎機能・血算が正常なら、2~3日で止めてよいのでしょうか?
A: 2~3日投与と14日投与の同等性を示すRCTが存在しないため、断言はできません。短期終了は添付文書上許容され得ますが、神経学的転帰において「十分」と証明されたわけではありません。
Q: 投与中止を強く考慮すべき状況は?
A: 添付文書上は急性腎障害・DICなどの重大な副作用や検査異常が中止の対象です。感染症の合併や抗菌薬との併用時には、継続の可否を慎重に検討する必要があります。
Q: 投与初期のモニタリングはいつが特に重要ですか?
A: 急性腎障害は投与4日目をピークに投与開始初期に集中します (8)。開始直後から1週間は、腎機能・肝機能・血算を特に頻回に検査することが重要です。
6. まとめ
・添付文書に従い「発症後24時間以内に開始・30mg×2回/日(30分かけて点滴静注)、14日以内」を基本の枠組みとして認識する
・「症状に応じ短期終了も考慮」は添付文書に明記された裁量だが、日数やNIHSSによる具体的な中止基準は規定されていないことを理解する
・投与初期(特に開始~7日目)のBUN/Cr・肝機能・血算を頻回に評価し、急性腎障害(4日目ピーク)を見逃さない
・感染症合併・抗菌薬併用・脱水・高齢などリスクが高まる状況では、継続の是非を個別に再評価する
・「2~3日で十分」と断定して一律に運用しない。短期投与と14日投与の同等性を示すエビデンスは不十分であり、目的(脳保護か廃用性筋萎縮の抑制か)を整理したうえで投与期間を判断する
7. 参考文献
- エダラボン注射液(ラジカット点滴静注バッグ30mg等)電子添付文書. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 (編集). 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕. 協和企画, 2025.
- Edaravone Acute Infarction Study Group. Effect of a novel free radical scavenger, edaravone (MCI-186), on acute brain infarction. Randomized, placebo-controlled, double-blind study at multicenters. Cerebrovasc Dis. 2003;15(3):222-229. PMID: 12715790.
- Naritomi H, Moriwaki H, Metoki N, et al. Effects of edaravone on muscle atrophy and locomotor function in patients with ischemic stroke: a randomized controlled pilot study. Drugs R D. 2010;10(3):155-163. PMID: 20945946.
- Kobayashi S, Fukuma S, Ikenoue T, et al. Effect of edaravone on neurological symptoms in real-world patients with acute ischemic stroke. Stroke. 2019;50(7):1805-1811. PMID: 31164072.
- Chen C, Li M, Lin L, et al. Clinical effects and safety of edaravone in treatment of acute ischaemic stroke: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Clin Pharm Ther. 2021;46(4):907-917. PMID: 33638896.
- Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al. Guidelines for the early management of patients with acute ischemic stroke: 2019 update to the 2018 guidelines for the early management of acute ischemic stroke: A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2019;50(12):e344-e418. PMID: 31662037.
- エダラボン製剤(ラジカット等)医薬品リスク管理計画書(RMP). 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).
- Fu Y, Wang A, Tang R, et al. Sublingual edaravone dexborneol for the treatment of acute ischemic stroke: the TASTE-SL randomized clinical trial. JAMA Neurol. 2024;81(4):319-326. PMID: 38372981.
- Chen HS, Zhao ZA, Shen XY, et al. Edaravone dexborneol for ischemic stroke with sufficient recanalization after thrombectomy: a randomized phase II trial. Nat Commun. 2025;16:2393. PMID: 40064868.









