【質問】ラスビック錠を服用中授乳を中止した場合、授乳の再開は服用中止後完全に薬剤が体内から消失してからがよいでしょうか。授乳についての資料等で他のニューキノロンでは授乳中も服用可の薬もありますが、ラスビック錠については記載がないため、授乳中止期間がかなり長くなりますが安全を重要視した方がよいかと考えておりますが、いかがでしょうか。
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1. 結論
ラスビック錠(ラスクフロキサシン塩酸塩)の電子添文では「授乳しないことが望ましい」とされており、ヒトでの乳汁中濃度や乳児への曝露量を示すデータは国内承認資料・インタビューフォームでも確認できません1) 2)。再開時期に関する直接的なエビデンスは存在せず、本剤の半減期と類薬データを使った薬物動態(PK)の参考値で考えるしかないというのが現状です2) 3)。
安全の重視なら最終投与後96〜120時間(約6〜7半減期)、慎重なら72〜84時間(約4.5〜5半減期)あたりにするのが現実的です2)。シプロフロキサシンやレボフロキサシンで使われる「投与後数時間だけ授乳を外す」運用をラスビックに当てはめる根拠はなく、本剤は類薬と同列に扱わず一段慎重にみるのが妥当です2) 5) 6)。
2. 背景
ニューキノロンの授乳に関する記載は薬剤ごとに差があります。シプロフロキサシンやレボフロキサシンには国内外でヒト乳汁データの蓄積があり、LactMed(NIH提供の授乳薬剤情報データベース)でも「モニタリング下で使用可」と整理されています5) 6)。一方ラスビックは2019年に承認された比較的新しいキノロンで、PMDAの審査資料には「すべての臨床試験で、妊娠及び授乳中の被験者の参加はなかった」と明記されています3)。
ラスビック特有の性質として、半減期の長さと動物データでの乳汁移行の高さがあります。健康成人での反復投与7日目のt1/2は16.2時間、患者推定値でも24時間後のトラフ濃度が0.295〜0.303 μg/mLと一定濃度が残ります2)。授乳ラットへの[14C]-ラスクフロキサシン10mg/kg投与試験では、乳汁中総放射能の乳汁/血漿比が1〜8時間で上昇し、24時間後も9.228と高値で推移していました2)。血漿濃度が下がっても乳汁側に残る可能性があります。
3. 報告
3-1. ラスビック錠75mg 電子添文/インタビューフォーム(杏林製薬)
「9.6 授乳婦」の項に「授乳しないことが望ましい。動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されている」と記載されています1) 2) 4)。妊婦・小児等は禁忌、授乳婦は禁忌ではないものの「授乳回避が望ましい」という位置づけです。インタビューフォームの乳汁移行性の項には「ヒトでの該当資料なし」とあり、PMDA審査資料でも「すべての臨床試験で、妊娠及び授乳中の被験者の参加はなかった」とされています3)。
3-2. ラスクフロキサシンの薬物動態
健康成人男性での空腹時単回75mg投与で、Cmax 0.592 μg/mL、Tmax 2.48時間、t1/2 13.9時間、AUCinf 10.2 μg・hr/mL。1日1回7日間反復投与の7日目では、Cmax 0.998 μg/mL、Tmax 1.50時間、t1/2 16.2時間、AUCt 13.0 μg・hr/mLでした2)。腎機能高度低下例(Ccr 15〜<30 mL/min)でもt1/2 17.9時間と大きな延長はみられませんが、中等度肝機能障害2例ではt1/2平均21.5時間(個別値19.6、23.4時間)まで延長しました2)。代謝は主としてCYP3A4で行われ、血漿中には主に未変化体が検出され、その他に脱シクロプロピル体が認められます2) 4)。
3-3. ラットでの乳汁移行データ
授乳ラットに[14C]-ラスクフロキサシン10mg/kgを単回経口投与した試験で、乳汁中総放射能濃度は投与1時間後にピークを示し、乳汁/血漿比は1時間後4.046、4時間後4.878、6時間後7.071、8時間後11.076、24時間後9.228と推移しました2)。1〜8時間で上昇し、24時間でも高値が続いています。ただしこの値は総放射能で、未変化体(活性本体)だけの濃度ではない点に注意が必要です。
3-4. 類薬キノロン系の授乳エビデンス(LactMed)
シプロフロキサシン750mgを12時間ごと3回投与した授乳婦10例で、乳汁中濃度は3回目投与2時間後の平均3.79 mg/Lがピークで、その後低下します。LactMedは「投与後3〜4時間授乳を避ければ曝露を減らせる」としています5)。レボフロキサシン500mg単回投与の代表的な2例データでは、乳汁中ピーク258〜265 μg/L、推定乳児摂取量15.5 μg/kg/日とされ、「経口投与後4〜6時間の授乳回避」が推奨されています6)。これらはヒト乳汁中の未変化体濃度に基づくデータであり、ラスクフロキサシンのラット総放射能データ(乳汁/血漿比4〜11)とは測定対象が異なります。本剤にはヒトでの直接データがないこと自体が、類薬と同列に扱いにくい理由です2) 5) 6)。
3-5. 令和6年度 厚労科研分担研究報告書(公表2025年)
「臍帯血・母乳中の医薬品濃度測定の推進」を扱った報告書で、母乳中薬物濃度測定情報が必要と考える具体的薬剤の一つとして、ラスクフロキサシンが挙げられました7)。乳汁中濃度測定、服薬中に母乳育児を行った児の有害事象調査、全国規模の測定体制整備が課題として記載されており、現時点では「追加データが必要な薬」という位置づけです。
4. 関連した質問
Q1. 治療中に「投与後数時間だけ授乳を外す」運用は使えますか?
本剤で類薬と同じ時刻調整を根拠づけるデータがありません。半減期が約16時間と長く、6時間後でも血漿ベースで概算約77%が残ります。治療中は授乳中止のほうが現実的です2) 4)。
Q2. 母体に肝機能障害がある場合、待機時間は延ばすべきですか?
中等度肝機能障害2例でt1/2が平均21.5時間(個別値19.6、23.4時間)まで延長したデータがあり、120〜144時間まで延長を検討します2)。
Q3. 児の月齢や条件で目安は変わりますか?
早産児・新生児・月齢の低い児・腎肝機能未熟な児では、乳児側クリアランスの未熟性を踏まえて96〜120時間以上の待機を検討します。健康な正期産児でも、本剤は短縮の根拠が確認できないため、48〜60時間といった大幅短縮は推奨できません2)。
Q4. 再開後に乳児で何を観察すべきですか?
LactMedで類薬のモニタリング項目として挙げられているのは、下痢、口腔カンジダ、強いおむつかぶれです5) 6)。ラスビック添文では血便を伴う重篤な大腸炎が記載されており、参考として血便にも注意します1)。
Q5. 「絶対禁忌以外は比較的寛容」の立場でも、ラスビックは避けるべきですか?
寛容な判断が成り立つには、ヒト乳汁データの存在、短半減期での時刻調整、類薬の蓄積データという3条件が前提となります。ラスビックはこの3条件のいずれも満たしていません2) 3) 5) 6)。「避ける薬」というよりも、「ラスビックでなければいけない理由」を一度確認する薬と整理するのが妥当です。授乳婦の症例では、ヒトデータが蓄積されているレボフロキサシンやシプロフロキサシンへの切替えが現実的かを処方医に相談する余地もあります5) 6) 8)。
5. まとめ
- 添付文書では治療中の授乳回避が望ましいとされており、再開はPK参考値による目安として、安全重視96〜120時間、慎重72〜84時間が現実的1) 2)。
- 授乳に対して比較的寛容に判断するスタンス自体は妥当だが、本剤はその前提(ヒト乳汁データ、短半減期、類薬データ)が揃っていない。授乳婦の症例ではレボフロキサシンやシプロフロキサシンへの切替えが現実的か処方医に相談する余地がある5) 6)。
- 母体に中等度以上の肝機能障害があれば、待機を120〜144時間まで延長を検討する2)。
- 再開後は乳児の下痢・血便・口腔カンジダ・おむつかぶれを保護者と一緒に観察し、症状があれば早めに受診する方針を共有する1) 5) 6)。
6. 参考文献
【引用文献】
- ラスビック錠75mg 電子添文. 杏林製薬株式会社/PMDA.
- ラスビック錠75mg 医薬品インタビューフォーム 第8版. 杏林製薬株式会社.
- ラスビック錠75mg 審査報告書/CTD 2.5 臨床に関する概括評価. 医薬品医療機器総合機構(PMDA), 2019.
- キョーリン製薬FAQ「ラスビック錠_授乳婦への投与は?」「ラスビック錠_代謝と排泄の経路は?」. 杏林製薬株式会社.
- Drugs and Lactation Database (LactMed). Ciprofloxacin. National Library of Medicine (US). Last Revision: August 15, 2024.
- Drugs and Lactation Database (LactMed). Levofloxacin. National Library of Medicine (US). Last Revision: December 15, 2025.
- 令和6年度 厚生労働科学研究費補助金分担研究報告書「臍帯血・母乳中の医薬品濃度測定の推進」(公表2025年).
- 国立成育医療研究センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」. 2025年8月改訂.
【参考文献】
- Furuie H, et al. Intrapulmonary Pharmacokinetics of Lascufloxacin in Healthy Adult Volunteers. Antimicrob Agents Chemother. 2018;62(4):e02169-17. PMID: 29339391.(ラスビックの肺内移行性試験)









