【質問】 整形外科領域の術後での静脈血栓塞栓症予防の対応についてご教示下さい。 エドキサバンを使用する場合、用量設定はどのようにされていますか?電子添文での適応は30mgで腎機能やPgpの相互作用を考慮して減量になるかと思いますが、出血リスクを考慮し一律(高齢低体重や肥満等)15mgで使用したりするご施設はございますか?また、内服薬は今のところエドキサバンしか適応がありませんが、常用薬でそれ以外の抗血小板薬や抗凝固薬を服用していた方の場合は、その常用薬を継続することで予防的対応は出来るものでしょうか?あまり知識がなくすみませんが、ご教示頂けると幸いです。
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結論
下肢整形外科大手術後のVTE予防において、エドキサバンの標準投与量は30mg/日です。減量は腎機能(Ccr 30-50mL/min)または強力なP-gp阻害薬併用時に限定されます。一律15mgへの減量は有効性低下から推奨されません。DOAC休薬中のヘパリン橋渡し療法はCHEST 2022で条件付きで非推奨(Grade 2C)とされ、原則行いません。抗血小板薬単独では効果不十分であり、抗凝固薬の使用が標準です。
背景
股関節全置換術(THA)、膝関節全置換術(TKA)、大腿骨近位部骨折手術(HFS)などの下肢整形外科大手術は、術後の静脈血栓塞栓症(VTE)の最大のリスク因子です。(現在の予防戦略が普及する以前の)古いデータではありますが、無症候性例を含め、予防策を講じない場合のVTE発生率は40-60%に達すると報告されていました。このため、2022年のInternational Consensus Meeting on Venous Thromboembolismや2024年のEuropean Guidelines on Peri-operative VTE Prophylaxis: First Updateにおいても、リスクに応じたVTE予防が強く推奨されています。 近年の課題は、DOAC服用患者の周術期管理にありましたが、最新の主要ガイドラインではヘパリンブリッジングを行わない方針が明確化されるなど、エビデンスに基づいた管理法への転換が進んでいます。
報告
Perioperative management of antithrombotic therapy: An American College of Chest Physicians Clinical Practice Guideline (CHEST 2022) American College of Chest Physicians・2022年
待機的手術のためにDOACを休薬する患者に対し、周術期のヘパリンによる橋渡し療法(ブリッジング)を行わないことを提案する(条件付き推奨、Grade 2C)。これはブリッジングが出血リスクを増大させるためである。ただし、機械弁置換後や重度の血栓塞栓症の既往があるVKA服用患者など、極めて血栓リスクが高い一部の症例では例外的にブリッジングが考慮される場合がある。
Akagi M, et al. J Orthop Sci. 2023;28:915-923.エドキサバン15mg vs 30mgの実臨床データ(後方視的コホート研究)
研究内容: 日本のTHA施行患者を対象に、エドキサバン15mg群(698例)と30mg群(704例)でのVTE予防効果と安全性を比較した。
結果: VTE発症率:15mg群 4.0% vs. 30mg群 1.1%(p=0.015, 15mg群で有意に高い) 重大な出血の発現率:両群ともに低率(0.1%)で有意差なし。
結論: 実臨床において、15mg投与は30mg投与と比較してVTE予防効果が有意に劣る。
関連した質問
Q1. 常用抗凝固薬(DOAC)を内服中の患者に、ヘパリンで橋渡し(ブリッジング)する必要はありますか?
A. いいえ、原則として不要です。最新のCHEST 2022ガイドラインでは、DOAC服用患者の周術期におけるルーチンでのヘパリンブリッジングは、出血リスクを増大させることから条件付きで非推奨(Grade 2C)とされています。計画的な休薬・再開が基本です。ただし、機械弁置換後のワルファリン服用患者など、一部の超高リスク症例では専門家の判断で例外的に考慮されます。
Q2. エドキサバンの減量が必要なのはどのような場合ですか?
A. 添付文書に基づき、以下のいずれかの場合に15mgへの減量を考慮します。
- 腎機能が中等度低下している患者(クレアチニンクリアランスが 30mL/min以上50mL/min以下の患者)
- 強力なP-gp阻害薬(シクロスポリン、ドロネダロン、エリスロマイシン、ケトコナゾール等)を併用する患者
Q3. 最新の国際的なコンセンサスでは、アスピリンはどのように位置づけられていますか?
A. 2022年のInternational Consensus Meeting on Venous Thromboembolism (ICM)³や2024年の欧州ガイドライン²では、DOACやLMWHなどの抗凝固薬が第一選択とされています。アスピリンは、これらの抗凝固薬が使用できない患者における次善の選択肢と位置づけられており、予防効果は抗凝固薬に劣ると考えられています。
まとめ
・エドキサバンの用量基準を厳守する 原則30mg/日で投与し、減量は①腎機能低下(Ccr 30-50mL/min)、②強力なP-gp阻害薬併用のいずれかに該当する場合にのみ検討する。実臨床データで有効性低下が示されているため、安易な減量は行わない。
・DOAC内服患者へのルーチンでのヘパリンブリッジングCHEST 2022ガイドラインに基づき、DOAC休薬中のヘパリンブリッジングは原則行わない。**出血リスクを増大させる。機械弁など一部の超高リスク例を除き、計画的休薬・再開を基本とする。
・投与タイミングと期間の正確な管理 術後12時間以上経過し止血を確認後に開始し、11~14日間、入院中に限り投与するという添付文書の規定を遵守する。
・最新の国際ガイドライン・コンセンサスを参照する VTE予防の第一選択はDOACであり、アスピリンは次善策であること³、常用抗凝固薬の管理はブリッジングなしの「計画的休薬・再開」が標準であることを理解する。
・理学的予防の徹底 薬物予防の選択に関わらず、全ての高リスク患者において、禁忌でない限り理学的予防法(間欠的空気圧迫法など)を併用する。
参考文献
- Douketis JD, et al. Perioperative management of antithrombotic therapy: An American College of Chest Physicians Clinical Practice Guideline. Chest. 2022;162:e120-e151. (DOI: 10.1016/j.chest.2022.04.004)
- Fenger-Eriksen C, et al. European Guidelines on peri-operative venous thromboembolism prophylaxis: First update. Eur J Anaesthesiol. 2024;41:549-569. (DOI: 10.1097/EJA.0000000000002003)
- Parvizi J, et al. International Consensus Meeting on Venous Thromboembolism. J Bone Joint Surg Am. 2022;104(Suppl 1):1-24. (DOI: 10.2106/JBJS.22.00038)
- 医薬品医療機器総合機構. リクシアナ錠15mg・30mg・60mg/リクシアナOD錠15mg・30mg・60mg 添付文書 2025年2月改訂(第7版).
- Akagi M, et al. Real-world effectiveness of edoxaban 30 mg vs 15 mg for VTE prophylaxis after THA in Japan. J Orthop Sci. 2023;28:915-923. (DOI: 10.1016/j.jos.2022.11.011)
更新履歴
- 初版: 2025-08-05
- 最新更新: 2025-08-05