【質問】
塗布薬の粘膜への使用について、これまで塗布薬は基本的に粘膜に使わないものと思っていましたが、添付文書には「粘膜に使用しないこと」とは記載がなく「眼科用として使用しないこと」としか記載されていない製品も多くあることに気がつきました(ただし、メーカーに問い合わせると粘膜には使用しないように言われることが今のところ多いです)。
また、実際に鼻粘膜にリンデロンVGのような処方もあると聞きます。婦人科では外陰部への塗布指示があったり、逆に搔き壊しにヒルドイド→ステロイドの重ね塗り指示はよくあるのに、ヒルドイドの添付文書に「びらん面への直接塗擦又は塗布を避けること」とあって驚きました。
ちなみに腟カンジダの適応がある市販のエンペシドクリームのメーカーに問い合わせると「粘膜への使用は避けるように」「使用は膣周囲のみ」と言われました。付いてしまうことは想定されていると思ったのですが。
粘膜への使用はダメと教わってきたのですが、よく考えるとその理由については自分の想像だけで正直わからないままです。皮膚に比べてバリア機能が低いために衛生面や刺激性などを考慮してなのか、それとも思っているほど粘膜への使用は制限されていなかったりするのか、逆に使わないのが常識すぎて特記されていないのか。
粘膜に使えるといえばアズノールとプロペト、口内炎の薬くらいだと思いこんでいましたが、ならそれも他の塗布薬と何がちがうかと言われれば悩みますし、そういえば痔の注入軟膏もあるし、でも直腸など消化管内は元々細菌がいても耐えれる環境だし他の粘膜とはちょっとちがうのか…?などとぐるぐる。
調べてみてもこれといった情報がヒットせず…。「粘膜に使えますか?」と聞かれたら、どのように答えていますか?(粘膜って目、鼻、口、陰部くらいですよね?)
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結論
原則として皮膚用外用剤は角層(stratum corneum)を前提に設計されているため粘膜には使用することはできません。例外として粘膜用として承認・設計された製剤(眼・鼻腔・口腔・直腸・腟)のみです。眼粘膜は必ず無菌の眼科用を使用します。鼻前庭は皮膚、鼻腔は粘膜という区別が判断の根拠となります。ヘパリン類似物質はびらん面を避ける必要があります。承認部位、無菌性、基剤/添加剤、部位解剖の4点で可否を考えます。
背景
粘膜は角層が存在せず、pH・浸透性・微生物学的要件が皮膚と異なっているため、吸収・刺激・汚染リスクが高いという特性を持ちます。日本薬局方は皮膚用(cutaneous)と眼科用(無菌)等を別で規定されているため、「眼科用に使用しないこと」の注意は品質の要件の差を示しています。鼻・外陰部は皮膚と粘膜の境界で誤用が生じやすく、未承認部位での使用は避ける必要があります。
報告
日本薬局方(2024) 眼科用液・溶液は無菌製剤、皮膚用製剤は「皮膚に適用することを目的とした製剤 (skin intended)」と明記されています。皮膚用外用剤の眼への使用は不可で、適応外の粘膜使用は原則避けます。
ヘパリン類似物質(ヒルドイド等)添付文書 「潰瘍・びらん面への直接塗擦又は塗布を避けること」と明記されています。血行促進・凝固抑制作用も有し、出血素因等で注意が必要です。
ムピロシン鼻腔用軟膏(バクトロバン鼻腔用2%) 鼻腔専用として、通常1日3回、3日程度の鼻腔内塗布が記載されています(PMDA)。一般皮膚用ムピロシンとは別製剤です。
トリアムシノロン口腔用軟膏/貼付 難治性口内炎・舌炎に承認され、口腔粘膜付着滞留性の基剤設計となっています。
ヒドロコルチゾン直腸剤 痔核・直腸炎等に直腸粘膜用として承認され、例として坐剤25–30 mgを1日2回×2週間等の用法があります(米国)。
境界解剖に関する知見 鼻前庭は角化重層扁平上皮(皮膚)、鼻腔は呼吸上皮(粘膜)であり、鼻前庭毛包炎・前庭炎には皮膚感染としての対応(例:ムピロシン)が報告されています。外陰部白班症は、超強力ステロイド(クロベタゾール0.05%)で導入し、その後維持へ漸減する国際ガイドラインがありますが、対象は外陰部皮膚で、腟粘膜内は適応外です。
関連した質問
Q: 「粘膜に使えますか?」への基本回答は?
A: 承認部位(眼・鼻腔・口腔・直腸・腟の明記)、無菌要件(眼は必須)、基剤/添加剤の刺激性、部位解剖(鼻前庭=皮膚/鼻腔=粘膜)の4点で判定し、未承認部位は避けると説明します。
Q: 鼻にリンデロンVGを塗ってよい?
A: リンデロンVG軟膏は皮膚外用で鼻腔粘膜は適応外です。鼻前庭(皮膚)の限局炎症に短期使用判断の余地はありますが、第一選択は鼻腔用ムピロシン等です。鼻腔深部の粘膜塗布は不可です。なお、リンデロンA点鼻液は点鼻の適応があります。
Q: 腟カンジダに「エンペシドクリーム」を腟内に入れてよい?
A: いいえ。クリームは皮膚用(外陰部周囲)で、腟内は腟錠や腟用クリームなど腟用製剤を使用します。メーカー情報も腟内使用を想定せずと明示しています。
まとめ
添文で粘膜用に承認されているか確認し(眼・鼻腔・口腔・直腸・腟)、眼は必ず無菌の眼科用を使用します。皮膚用外用剤を眼に使用してはいけません。鼻前庭 (皮膚)と鼻腔 (粘膜)を区別し、深部粘膜への皮膚用塗布は避けます。皮膚用外用剤の眼・腟内・鼻腔深部への使用、クロルヘキシジンの腟/口腔等粘膜使用は避けるべきです。
参考文献
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The Japanese Pharmacopoeia 18th ed., Supplement II. PMDA; 2024.(眼科用無菌・皮膚用定義)【JP規格】
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マルホ/持田/他. ヘパリン類似物質(ヒルドイド)添付文書
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リンデロンVG軟膏 添付文書
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塩野義. リンデロンA点眼・点耳・点鼻液 添付文書
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バクトロバン鼻腔用軟膏2% 添付文書
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オルテクサー口腔用軟膏0.1% 添付文書/IF.
更新履歴
初版:2025-08-17
最新更新:2025-08-17