【質問】小児患者に対し、食物アナフィラキシー時に炭酸水素Na(重曹)を1g頓服させるという処方を見かけました。作用機序や適応病態等教えていただきたいです。
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結論
・小児の食物アナフィラキシー急性期に炭酸水素ナトリウム1g経口頓用は非推奨です。急性期の第一選択は速やかな筋注アドレナリンであり、重曹内服は標準治療に含まれません(アドレナリン投与遅延が最大の問題)[1][2][3]。
・重曹は食物依存性運動誘発アナフィラキシーでの「運動前の予防投与」に関する症例報告があるのみで、発症後治療のエビデンスはありません[9][10][11]。
・1g中のNa量は約274 mg(≒11.9 mEq)で、小児の用法は確立せず。脱水などの状況では高Na血症/代謝性アルカローシスの副作用が増します[7][8]。
背景
アナフィラキシーは急速に反応する致死的全身反応で、日本の多施設レジストリ767例のうち68%が食物誘因でした[5]。致死例解析では食物では曝露後中央値30分で呼吸/心停止に至り得ると報告され、初期対応の遅れは致命的です[6]。現場では「内服で様子を見る」ことがアドレナリン投与遅延につながり得るため、誤った代替策の排除が重要です[3][6]。
報告
ガイドライン
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日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン(2022)
「発見次第、筋注アドレナリンが最優先」。抗ヒスタミンやステロイドは補助であり、アドレナリンの代替にならない。重曹経口投与への言及なし[1]。 -
World Allergy Organization (WAO) Guidance(2020)
「筋注アドレナリンが第一選択」を明記。[2]。 -
AAAAI/JTFPP Practice Parameter Update(2023)
「アナフィラキシーの根幹治療は迅速なアドレナリン注射」。投与を遅らせないことを強調[3]。 -
EAACI Guidelines(2021 update)
第一選択は筋注アドレナリン。その他薬剤は補助であり代替ではない[4]。
研究論文
-
Sato S, et al. 2023多施設レジストリ
767例中、食物68%、薬剤12%、食物依存性運動誘発性アナフィラキシー5%。自己管理と初期アドレナリンが不十分との所見[5](PMID: 36588001)。 -
Pumphrey RS. 2000 致死例解析
呼吸/心停止までの中央値:食物30分、毒刺15分、医原性5分。早期アドレナリンの重要性を示唆[6](PMID: 10931122)。 -
Katsunuma T, et al. 1992 症例報告
小麦依存性運動誘発アナフィラキシーで運動前の重曹予防投与によりpH低下とヒスタミン上昇を抑制[9](PMID: 1310835)。 -
Azofra García J, et al. 1986 レター
運動誘発アナフィラキシーで重曹の予防的投与により発症抑制を示唆[10](PMID: 3024520)。
関連した質問
Q1:なぜ炭酸水素Na(重曹)「1g頓服」がよくないのですか?
A: 最大の懸念はアドレナリン投与の遅延です。食物誘因の致死例では30分で呼吸/心停止に至り得ます。重曹は効果不確実で、服用準備や嘔吐で時間を失いかねません[6][3]。
Q2:小児に炭酸水素Na(重曹)1g内服しても安全ですか?
A: 1g=11.9 mmol(≒11.9 mEq)Na、Na量≒274 mg。小児の具体量規定なし(年齢・症状で適宜増減)。脱水や腎機能未熟例では高Na血症/アルカローシスのリスクが相対的に高まります[7][8]。
Q3:食物依存性運動誘発性アナフィラキシーでは重曹が有効ですか?
A: 発症前の予防としての症例報告があるのみ。急性期治療(発症後)に用いる根拠はありません[9][10][11]。
まとめ
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急性期は筋注アドレナリンが唯一の第一選択。内服重曹は用いない[1][2][3]。
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「炭酸水素Na(重曹)で様子見」=致命的遅延を招く可能性がある[6]。
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食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの予防例=限定的症例報告で、発症後 炭酸水素Na(重曹) 頓用に不可[9][10]。
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炭酸水素Na(重曹)1g=Na約274 mg(11.9 mEq)。年齢・症状により適宜増減で小児の具体量の規定ない・脱水/腎機能未熟で電解質異常に注意[7][8]。
参考文献
引用文献
[1] 日本アレルギー学会. アナフィラキシーガイドライン2022. 2022.
[2] Cardona V, et al. World Allergy Organization Anaphylaxis Guidance 2020. World Allergy Organ J. 2020;13(10):100472. (PMID: 33204386)
[3] Golden DBK, et al. Anaphylaxis – a 2023 practice parameter update. Ann Allergy Asthma Immunol. 2024;132(2):124-176.
[4] Muraro A, et al. EAACI guidelines: Anaphylaxis (2021 update). Allergy. 2022;77(2):357-377. (PMID: 34343358)
[5] Sato S, et al. Current situation of anaphylaxis in Japan. Allergol Int. 2023;72:437-443. (PMID: 36588001)
[6] Pumphrey RS. Lessons for management of anaphylaxis from a study of fatal reactions. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-1150. (PMID: 10931122)
[7] PMDA/JAPIC. 日本薬局方 炭酸水素ナトリウム(経口)添付文書(2023年改訂).
[8] StatPearls/Bookshelf. Sodium Bicarbonate(2024更新); Metabolic Alkalosis(2023更新).
[9] Katsunuma T, et al. Wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis: inhibition by sodium bicarbonate. Ann Allergy. 1992;68:184-188. (PMID: 1310835)
[10] Azofra García J, et al. Exercise-induced anaphylaxis: inhibition with sodium bicarbonate. Allergy. 1986;41:471. (PMID: 3024520)
[11] Povesi Dascola C, Caffarelli C. Exercise-induced anaphylaxis: A clinical view. Ital J Pediatr. 2012;38:43. (PMID: 22989115)
参考文献
-
ASCIA. Acute management of anaphylaxis. 2024.
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Resuscitation Council UK. Emergency treatment of anaphylaxis. 2021.
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厚労省/消費者庁. 食物アレルギー関連調査報告. 2022.









