【質問】シングリックスについてご経験があればご教示ください。5年前に1回接種し、その後2回目の接種機会を逃して5年程経過し、今回改めて接種を検討している症例の相談がありました。メーカーに伺ってもそのようなデータはなく、最終的には医師の判断との回答となりました。このような対応のご経験がありましたら今後の参考までにご教示頂けますと幸いです。
1. 結論
1回接種後に5年以上あいた患者への2回目接種を、直接検証した臨床試験や観察研究は見当たりません。5年超遅延後の2回目の有効性や安全性を定量的に保証する直接エビデンスは、今回確認した資料にはありません。メーカーの「そのようなデータはなく、最終的には医師の判断」という回答は、公開資料で確かめられる範囲と一致します1) 3) 4)。
接種適応があり禁忌がなければ、シリーズを最初からやり直さず「2回目を1回だけ追加して完了」とするのが、現時点で最も適当な案です。CDC/ACIPと豪州・カナダの公的指針(6か月を超えても2回目をできるだけ早く接種し、シリーズはやり直さない)と一致します。1回接種のみでは防御が不完全で、年単位で低下するという実臨床データとも合っています3) 4) 6) 7) 9)。
ただし日本では、添付文書が想定する間隔(通常2か月、遅くとも6か月)を大きく超えます。添文の範囲外の判断であること、5年超遅延の直接エビデンスが見当たらないことを説明・記録し、同意を得たいところです1) 2)。
2. 背景
シングリックス(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン)は2回接種で完成し、効果は非常に高いです。一方で1回のみの防御は不完全で、実臨床では1年以降に明らかに低下します1) 7)。相談の中心は、「もう一度1回目からやり直すのか」「2回目を1回足して完了とするのか」です。現在の推奨は「5年超遅延の直接エビデンス」ではなく、公式ガイダンス、主に1年以内の遅延データ、免疫学的情報を組み合わせたものです3) 4) 5) 6)。
3. 報告
① 標準2回接種の有効性(ZOSTER-006/022)
50歳以上で帯状疱疹予防効果97.16%、70歳以上で89.79%でした。いずれも2回接種を完了したコホート中心の値です1)。
② 長期追跡(最終解析)
2回接種完了者で、接種後5.6〜11.4年(いずれも中央値)の有効性は79.8%、全追跡11.4年間で87.7%でした。新たな重篤副反応は認められていません1) 8)。
③ 1回 vs 2回の実臨床有効性
Zerbo 2024(約200万人)では1回64%・2回76%で、1回は1年後から低下、2回は4年でほぼ安定でした。Izurieta 2021(Medicare)では1回56.9%・2回70.1%です。1回のみの防御は不十分と一貫して報告されています7) 6)。
④ 遅延2回目の最も近いデータ
Lal 2018(0・2/0・6/0・12か月比較RCT)では、0・6か月は抗gE抗体の幾何平均濃度(GMC)で非劣性を達成しました。0・12か月は非劣性未達でしたが、ワクチン応答率は94.5%でした。Izurieta 2021では、2回目が180日超(中央値230日)でも180日以内とほぼ同等の有効性でした。いずれも遅延は1年以内が中心で、5年超には外挿できません5) 6)。Zerbo 2024には接種間隔が1年以上の群もあり、有効性は75%(6か月以内は76%)でした。この群も、5年超の遅延を直接評価したものではありません7)。
⑤ 日本の添付文書・厚労省
日本の電子添文・GSK医療者向け情報は、50歳以上の者で通常2か月、遅くとも6か月までの2回接種を想定しています。厚労省も「2か月以上の間隔をあけて2回」と説明していますが、この案内には6か月を大きく超えた場合のキャッチアップ方法は記載されていません1) 2)。
⑥ CDC/ACIP
CDCは「1回目から6か月を超えていても、2回目をできるだけ早く接種し、シリーズを最初からやり直さない」(和訳)と明記しています。ACIP 2018も再スタート不要としつつ、代替スケジュールの有効性は評価されておらず、安全性データも限定的と注意しています3) 4)。
⑦ 豪州・カナダの公的指針
豪州NCIRSは、6か月以上経過していても2回目をできるだけ早く接種し、1回目をやり直す必要はないと説明しています。豪州の免疫手引きも、間隔が6か月を超えた2回目を接種し直す必要はないと明記しています。カナダ免疫ガイドでは、2回目遵守の改善を目的に12か月間隔も考慮可能とされています9)。
⑧ 免疫不全者での残余リスク
大規模観察研究(Izurieta 2021のサブグループ)では、免疫不全群の1回接種の有効性は37.0%、2回接種で64.1%でした。未完了のままにする不利益がより大きいと考えられます6)。
⑨ 安全性
標準接種では注射部位疼痛・筋肉痛・疲労・頭痛が多く見られます。海外の指針では、通常1〜3日で軽快するとされています。本剤の成分によるアナフィラキシーの既往は禁忌です。ギラン・バレー症候群(GBS)は非常にまれです。FDAが2021年に公表した解析では、65歳以上の接種後42日間に100万接種あたり約3例の過剰が推定されました(主要解析)。初回接種後に限ると約6例で、2回目後の増加は認められていません(二次解析)。5年超遅延2回目の安全性コホートは見当たりません1) 4) 9)。
4. 関連した質問
Q1. 今回の接種は「ブースター」と説明すべきか?
A: いいえ。「未完了だった初回2回シリーズの完了」と説明すると、患者に理解されやすいです。3回目の追加接種(ブースター)ではないと明確に伝えたいところです4)。
Q2. 最初から2回やり直す必要はあるか?
A: 米国・豪州・カナダの公的指針は「やり直し不要」としています。2回目を1回追加して完了とするのが、これらの指針の標準的な考え方です3) 4) 9)。
Q3. 免疫不全の患者ではどう考えるか?
A: 未完了のまま放置する不利益が大きいと考えられるため、接種適応があれば早めの完了が望まれます。免疫抑制治療の予定があれば、接種時期を主治医と早めに調整したいところです3) 4) 6)。
Q4. 接種を見送る/延期する場面は?
A: 日本の電子添文は、明らかな発熱、重篤な急性疾患、本剤の成分によるアナフィラキシー既往のある人を接種不適当者としています1)。海外の指針では、前回接種後のアナフィラキシーも禁忌で、活動性帯状疱疹の最中は延期するとされています。本剤接種後6週間以内のGBS既往がある場合は、利益と再発リスクを個別に評価するよう記載されています4) 9)。
5. まとめ
- 5年超遅延後の2回目を直接検証したデータは見当たらない。メーカーの「データなし・医師判断」という回答は、公開資料で確かめられる範囲と一致する
- 禁忌がなければ、シリーズをやり直さず2回目を1回追加して完了とするのが米国・豪州・カナダの公的指針と整合する
- 1回接種のみでは防御が不完全で年単位で低下する。完了の利益は見込まれる
- 日本では添文想定間隔(通常2か月、遅くとも6か月)を超えるため、添文範囲外での判断であることと5年超の直接データが見当たらないことを説明・記録して同意取得する
- 免疫不全者は未完了放置の不利益が大きいと考えられる。安全性は注射部位疼痛や筋肉痛などの副反応が中心で、GBSはまれ
6. 参考文献
- シングリックス筋注用 電子添文・GSK医療者向け情報(PMDA)
- 厚生労働省 帯状疱疹ワクチン(定期接種・接種スケジュール)
- CDC. Shingles (Herpes Zoster) Vaccine Recommendations(6か月超でもやり直さない)
- Dooling KL, et al. ACIP勧告. MMWR. 2018;67(3):103-108
- Lal H, et al. 0・2/0・6/0・12か月比較RCT(ZOSTER-026). Vaccine. 2018. PMID:29174683
- Izurieta HS, et al. Medicare大規模観察研究(180日超遅延・免疫不全サブグループを含む). Clin Infect Dis. 2021. PMID:33580242
- Zerbo O, et al. 1回 vs 2回の実臨床有効性. Ann Intern Med. 2024. PMID:38190712
- Strezova A, et al. 2回接種後の長期有効性(最終解析、追跡11.4年). eClinicalMedicine. 2025. PMID:40630610
- 豪州NCIRS / Australian Immunisation Handbook / Canadian Immunization Guide(再スタート不要・12か月間隔許容)









