【質問】PCI処置後の虚血性心疾患に対して、バイアスピリン+ (プラビックス or エフィエント)の併用療法 (DAPT) が行われます。
ステントの種類によって、BMS (Bare Metal Stent) であれば1ヶ月、DES (Drug Eluting Stents 薬剤溶出性ステント) であれば6ヶ月程度DAPT が継続し、その後バイアスピリン単剤を半永久に継続することが多いと思います。
しかし、当院ではバイアスピリン単剤となることが少数派であり、大抵の場合プラビックス or エフィエントの単剤となります。プラビックスもエフィエントも、PCI処置後の適応の場合、「バイアスピリンと併用すること」と添付文書に記載されていますが、この方法はよく行われているのでしょうか。エフィエントに至ってはPCI処置後の適応しかなく、単剤療法は保険適用的にどうなのかと疑問に思っています。
【用語解説】
PCI : 経皮的冠動脈インターベンション
DAPT : dual antiplatelet therapy (血小板薬2剤併用療法)
BMS : Bare Metal Stent (従来の金属ステント)
DES : Drug Eluting Stents (薬剤溶出性ステント)
【A】ある大学病院においてもPCI処置後のエフィエント単剤療法が散見されますが、添付文書上の保険適応外となるため、薬剤師としては疑義照会が必要と考えられます。(ただし実際の臨床では疑義照会後も、変更なしとなるケースが見られています。)
バイアスピリン単剤は、薬価が安いという利点がありますが、消化管粘膜障害や消化管出血の副作用のリスクがあるため、クロピドグレル、エフィエントなどの単剤療法が行われていると考えられます。これらの明確なエビデンスは出ていなさそうですが、以下のとおり、LancetやN Engl J Medなどで報告があります。
具体的には【バイアスピリン単剤とクロピドグレル単剤】で出血リスク、心血管イベントが変わらなかったという報告があります。一方で、【チカグレロール単剤療法(ブリリンタ)】は全死因死亡または心筋梗塞は【バイアスピリン単剤】よりも優れていなかったと報告もあります。
まとめると、現時点ではPCI処置後の【クロピドグレルorエフィエント】の単剤療法は適応外であるため、原則として、疑義照会が必要です。また、【バイアスピリン単剤】と比較して有用かどうかは、現在もまだ議論されている段階であると考えられます。以下の報告を参考として、個々の患者に適した選択をしていく必要がありそうです。報告については簡潔に記載しています。
【用語解説】
P2Y12受容体拮抗薬
クロピドグレル、エフィエント、チクロピジン、チカグレロル(ブリリンタ)
GLOBAL LEADERS試験
・チカグレロル単剤とアスピリン単剤と比較
チカグレロル単剤はアスピリン単剤よりも優れていなかった。つまり、チカグレロル単剤はPCI後の標準抗血小板療法となりえない可能性がある。(全死因死亡、心筋梗塞比較)。アスピリン単剤の方が優れている。もしくは同等。【内容】PCI後、チカグレロルとアスピリンを1か月間併用し、続いて23か月間チカグレロル単独療法 VS 12か月の標準的な抗血小板療法と12か月後のアスピリン単独療法
(Lancet. 2018, 15;392(10151):940-949)
SMART-CHOICE
PCI後の患者2993人。
【長期のDAPT(血小板薬2剤併用療法)】 VS 【3か月のDAPT後のP2Y12阻害剤単剤(クロピドグレル77%)】→P2Y12阻害剤単剤は心臓および脳血管有害事象が非劣性。
つまり、P2Y12阻害剤単剤でも、DAPTと比較して、心臓および脳血管有害事象は劣っていなかった。
(JAMA. 2019 Jun 25;321(24):2428-2437)
PCI後の患者3045人。
【アスピリンとクロピドグレルを併用した12か月のDAPTの群】 VS 【1か月のDAPTに続いてクロピドグレル単剤療法の群】
【1か月のDAPTに続いてクロピドグレル単剤療法】のほうが、【アスピリンとクロピドグレルを併用した12か月のDAPT】の比較して、心血管イベントと出血イベントは低下。
(JAMA. 2019 Jun 25;321(24):2414-2427)
TWILIGHT試験
対象者 : PCIを施行し、3ヶ月間のDAPTを完了したリスクが高い患者。
【チカグレロールとアスピリン併用療法】 VS 【チカグレロール単剤療法】
チカグレロール単剤療法は併用療法と比べて、出血の発生率が低い。さらに死亡、心筋梗塞、または脳卒中のリスクは高くなかった。
(N Engl J Med. 2019 Nov 21;381(21):2032-2042)