【質問】水剤を賦形する際、水道水と単シロップで違いはあるのでしょうか。
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1. 結論
水道水と単シロップは「甘いかどうか」の違いではなく、製剤学的に異なるものです。賦形で比較するのは水道水ではなく精製水です。日本薬局方では、経口液剤・経口の懸濁剤の溶剤として精製水を用いるのが通例で(シロップ剤の基剤は糖類の溶液または単シロップ)、水系賦形の標準は精製水であるためです1)。
水道水は飲用に適するよう定められた水で、pHは水質基準で5.8〜8.6、残留塩素は衛生上の措置として給水栓で0.1mg/L以上の保持が求められます。いずれも幅があり、製剤原料としての一定性は担保されていません。調剤の再現性・安定性・説明可能性を重視するなら、水性賦形は水道水ではなく精製水を原則にすべきです1) 4)。
単シロップはショ糖85w/v%前後の高濃度糖液で、矯味・増粘(沈降遅延)・一定の自己保存性を一度に与えます。一方で、高浸透圧・糖負荷・齲蝕リスク・経管投与時の扱いにくさを引き受ける設計です。したがって、味や懸濁安定性の改善が本当に必要なときだけ単シロップを使い、それ以外は精製水を基本にするのが適切です3)。
2. 背景
「賦形の水」とひとまとめにされがちですが、水道水・精製水・単シロップは役割が異なります。水道水は溶媒(しかも規格に幅がある飲用水)、精製水は製剤用の溶解剤、単シロップは甘味・粘性・ある程度の保存性を持つ基剤です1) 2) 3)。日本薬局方の製剤総則では、シロップ剤は有効成分に糖類の溶液または単シロップを加えて製し、経口液剤・経口の懸濁剤は精製水を溶剤として用いるとされています。つまり、水系の賦形の標準は精製水で、水道水ではありません1)。
3. 報告
① 日本薬局方:水系賦形の標準は精製水
経口液剤・経口の懸濁剤は通例、精製水を溶剤とします(シロップ剤の基剤は白糖・糖類の溶液または単シロップ)。精製水はイオン交換・逆浸透膜処理・限外ろ過・除菌ろ過などを経た溶解剤で、製剤・試薬・試液の調製に用いるとされています。ただし滅菌精製水とは異なり無菌は保証されておらず、開封後の微生物汚染には注意が必要です1) 2)。
② 単シロップの組成と物性
日局単シロップは1mL中に白糖約0.85g(85w/v%)を含み、比重は1.310〜1.325です。熱量は白糖0.85g/mL×約4kcal/gから1mL当たり約3.4kcalと概算されます。重量分率では約64〜65w/w%に相当します。粘度は水(約1mPa·s)より桁違いに高く、懸濁粒子の沈降を遅くします。浸透圧は白糖濃度から計算した理論値で、溶液体積あたり約2,480mOsm/L、水分量あたりの質量モル濃度では約5,200〜5,400mOsm/kgに相当し、いずれの基準でもきわめて高張です3)。
③ 微生物学的安定性
ショ糖高濃度では自由水が減り、85w/v%(約65w/w%)は中性シロップを保存できる下限域とされています。ただし、その保存性は完全ではありません(単シロップの具体的な水分活性値は公定規格には規定されていません)。実際、単シロップそのものは14日程度は安定でも、精製水で希釈すると微生物学的基準を満たさなくなる報告があります。保存性は希釈・開封・分注・薬剤添加で簡単に崩れると考えられます3) 5)。
④ 化学的安定性と溶解性
単シロップは酸と熱でショ糖が転化糖へ加水分解され、甘味の変化・着色・性状変化が起こりえます。また、ショ糖‐水相互作用が強く水より溶媒力が低いため、薬剤によっては溶解性低下や析出、配合変化を起こすことがあります。「とりあえず単シロップで希釈する」は安全とは言えません3)。
⑤ 新生児・乳児での注意
新生児(出生後から生後28日未満)では経腸投与液の浸透圧450mOsm/kg前後以下が安全の目安とされますが、単シロップは理論上これを大きく上回る高張液です。添加剤は製品により異なり、パラベンや安息香酸塩を含む製品では新生児で配慮が必要(安息香酸塩は黄疸増悪の懸念)です。新生児への単シロップ賦形は、原則避ける方向で検討するのが妥当です3) 7)。
⑥ 糖尿病・むし歯
単シロップ5mLで白糖4.25g(計算上約17kcal)、1日3回なら白糖12.75g/日が加わります。糖尿病患者では血糖管理にマイナスになります。白糖含有液剤は頻回・就寝前・長期連用で齲蝕リスクが上がる点にも注意が必要です3) 8)。
⑦ 経管投与
単シロップは高浸透圧・高粘度のため、細いチューブや空腸側投与では耐容性とチューブ通過性の両面で不利です。未希釈投与は避け、薬剤が許せば希釈し、前後フラッシュを十分に行うのが無難です3)。
⑧ 使用期限と保管
市販日局単シロップは室温・未開封で3年の有効期間ですが、開封後はなるべく早く使用し、密栓して汚染を防ぐとされています。水を含む経口調製剤で安定性データが乏しい場合、国際的には冷所14日以内が保守的基準として広く参照されています(USP〈795〉は2023改訂後も非保存の水性製剤は冷蔵14日を維持)。日本病院薬剤師会の指針でも、使用期限・保管方法の明示が求められます3) 5) 6)。
4. 関連した質問
Q1. 散剤を溶かして渡すとき、精製水と単シロップのどちらを基本にすべきか?
A: 矯味が必要なければ精製水を基本にするのが無難です。苦味マスキングや沈降遅延が本当に必要なケースに限って単シロップを選ぶのが選択肢の一つです。水道水は原則として賦形用原料水には用いません1) 3)。
Q2. 単シロップを水で薄めても保存性は保たれるか?
A: 崩れます。単シロップの自己保存性は高濃度のままのときに限られ、希釈した最終液は微生物学的基準を満たさなくなることがあります。冷蔵・短期BUD・少量分割交付に切り替えるか、防腐系を検討したいところです3) 5)。
Q3. 糖尿病患者の水剤に単シロップを使ってよいか?
A: 1mLあたり白糖0.85gのため、少量でも累積すると無視しにくくなります。原則は精製水または無糖の基剤を優先し、やむをえず使う場合は糖質量を具体的に伝えたいところです3)。
Q4. 経管投与の患者で単シロップ賦形はどうか?
A: 未希釈投与は避けます。高張・高粘度でチューブ閉塞や浸透圧負荷の懸念があるため、より低張・低粘度になるよう希釈し、前後フラッシュを十分に行います3)。
5. まとめ
- 賦形で比較するのは水道水ではなく精製水。経口液剤・経口懸濁剤の溶剤は精製水が標準(シロップ剤の基剤は糖類溶液・単シロップ)。
- 水道水は規格に幅がある飲用水で、製剤原料としての一定性に欠ける。原則として賦形用原料水には用いない。
- 単シロップは矯味・増粘・一定の保存性を与える一方、高浸透圧・糖負荷・齲蝕・経管投与ではデメリット
- 単シロップの保存性は希釈で崩れる。希釈最終液は冷蔵・短期BUD・少量分割を検討する。
- 新生児・糖尿病・経管投与・長期保存では単シロップにしない。
6. 参考文献
- 第十九改正日本薬局方 製剤総則(経口液剤・シロップ剤・懸濁剤)(2026年4月10日告示). 厚生労働省
- 精製水 製品情報・添付文書(PMDA掲載)
- 単シロップ(日局) 添付文書・インタビューフォーム
- 水質基準(pH). 環境省/水道法施行規則第17条(残留塩素・衛生上の措置). 厚生労働省
- USP <795> Pharmaceutical Compounding—Nonsterile Preparations(2023改訂、水活性ベースのBUD)/小児用即時調製ビークルの微生物学的安定性に関する検討(PMC6213630)
- 日本病院薬剤師会 院内製剤の調製及び使用に関する指針 Ver.1.1(表示・使用期限・保管方法)
- EMA 添加剤Q&A(安息香酸・安息香酸塩、新生児核黄疸)/新生児の添加剤曝露に関する国内多施設調査
- 小児経口液剤の浸透圧・齲蝕リスクに関する文献・薬剤師会Q&A









