【質問】エンレスト錠の粉砕についてです。粉砕品は湿気を呼ぶと聞きますが、保管条件がよければ、期間としてはどのくらいまで保管して大丈夫でしょうか。
1. 結論
国内の公開されている公式資料には、エンレスト錠を粉砕した乾燥粉末の保存可能期間は示されていません。インタビューフォームは、粉砕・崩壊懸濁・経管投与チューブの通過性をいずれも「個別に照会すること」としています。したがって「条件さえよければ何日まで」という問いに、公開された根拠で日数を答えることはできません2)。
保存可能期間が確認されていない以上、事前に粉砕して保存することは避け、必要時に粉砕して速やかに投与するのが望ましいと考えます。事前粉砕がやむを得ない場合は、メーカーへの個別照会と、施設内でのリスク評価が前提になります2)。
数日以上の保存が必要なら、乾燥粉末のまま置くのではなく、剤形を変える方向で考えます。
インタビューフォームには、小児慢性心不全で錠剤・粒状錠では用量調整が難しい場合に、100mg錠4錠と単シロップ100mLから4mg/mL懸濁液を調製し、PPボトルで15〜25℃・7日間、冷蔵しないという手順が示されています。ただしこれは小児向けの限定的な調製法で、成人の嚥下困難や経管投与にそのまま広げられる方法ではありません2)。
2. 背景
粉砕でまず思い浮かぶのは吸湿ですが、問題はそれだけではありません。原薬サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物は2.5分子の結晶水を含むイオン性の共結晶で、相対湿度60%を超えると非常に吸湿性が高くなります2) 5)。錠剤はフィルムコーティングですが、砕くと表面積も増えるため、湿気の影響を受けやすくなる可能性があります。ただし、粉砕後にどれだけ吸湿するかを直接測ったデータは公開されていません。加えて粉砕では、含量の回収率や器具・包材への付着による投与量の損失、含量の均一性、溶出性、経管チューブの通過性なども問題になります。添付文書・IFには粉砕・懸濁投与の承認された用法は示されず、いずれも個別照会とされています2)。
3. 報告
① 粉砕後の保存期間は公開されていない
国内インタビューフォームは、粉砕・崩壊懸濁・経管投与チューブの通過性について一般条件を示さず、いずれも「個別に照会すること」としています。公開資料には粉砕後乾燥粉末の保存可能日数がなく、個別照会が必要ということです。メーカー内部の照会回答まで否定するものではないため、「データが存在しない」ではなく「公開された日数設定がない」ということです2)。
② 相対湿度60%を超えると非常に吸湿性が高くなる
インタビューフォームは原薬について「相対湿度60%を超えると非常に吸湿性が高くなる」と記載しています。論文でも、本剤(LCZ696)は2.5分子の結晶水を含むイオン性共結晶で、動的水分吸着などから吸湿性がきわめて高いとされ、相対湿度60%未満での保管が推奨されています2) 5)。
③ 錠剤での保存について
100mg錠は割線入りのフィルムコーティング錠で、分割錠(半錠)は25℃・60%RHで3か月規格内、溶出性も変わりありません。無包装の100mg錠も同条件で3か月規格内、開封後のポリエチレン瓶は稼働日に5分間開放で6か月規格内でした(瓶包装は100mgのみ)。1) 2)。
④ 国内の4mg/mL懸濁液は小児慢性心不全向けの限定手順
国内インタビューフォームには、小児慢性心不全で錠剤・粒状錠では用量調整が難しい場合の調製法として、100mg錠4錠を単シロップ100mLで懸濁して4mg/mL液とし、PPボトルで15〜25℃・7日間、冷蔵しないという手順が示されています。ただしこれは小児向けの記載で、成人の嚥下困難や経管投与に一般化できる剤形ではありません。経管投与チューブの通過性自体がIFで個別照会とされ、この手順にも経管投与可能とは書かれていません2)。
⑤ 代替案
粉砕の目的が用量調整なら、割線のある100mg錠の半錠化を検討します(50mg・200mgに割線はなく分割は推奨されません)。半錠には安定性データがあり、乾燥粉末より根拠が確かです。小児慢性心不全では、既存製剤で用量調整が難しい場合にIF掲載の懸濁液が選択肢になります。1) 2)。
4. 関連した質問
Q1. 結局、何日まで保管してよいのですか?
A: 公開資料からは日数を設定できません。事前に粉砕して保存することは避け、必要時に粉砕して速やかに投与します。事前粉砕がやむを得ない場合は、メーカーへの個別照会と施設内でのリスク評価が前提です2)。
Q2. 乾燥剤を一緒に入れれば長く持ちますか?
A: 乾燥剤は容器内の湿度を下げる可能性はありますが、粉砕品の保存期間を延ばせるという根拠はありません。乾燥剤を入れたことを理由に保存日数を設定することはできません。
Q3. 冷蔵すれば湿気や安定性に有利ですか?
A: 粉砕した乾燥粉末について、冷蔵で安定性が向上するという公開データはありません。「冷蔵しない」という明示は、国内・米国とも調製済み懸濁液に対する指示です。冷蔵で保存期間を延ばせるとはいえません2) 3)。
Q4. そもそも粉砕を避ける方法はありますか?
A: あります。用量調整なら、既存規格(50mg・100mg・200mg錠)や割線のある100mg錠の半錠化を検討します。小児慢性心不全では小児用粒状錠が使えます。国内IF掲載の4mg/mL懸濁液は、小児で既存製剤による用量調整が難しい場合の選択肢です。成人の嚥下困難や経管投与は、個別照会が必要です1) 2)。
5. まとめ
- 公開資料には粉砕後乾燥粉末の保存可能期間の記載がない。IFは粉砕・懸濁・経管を「個別に照会」としている。
- 保存日数が確認されていないため、事前粉砕・保存は避け、必要時に粉砕して速やかに投与する。「当日中」もデータはない。
- 原薬はRH 60%超で非常に吸湿性が高いが、RH 60%未満なら粉砕品が安定という保証ではない。高湿度回避・防湿はリスク低減策にとどまる。
- 国内4mg/mL懸濁液(単シロップ・7日・冷蔵しない)は小児慢性心不全向けの限定手順。「冷蔵しない」は懸濁液への指示。
- 代替は、用量調整なら既存規格や割線100mg錠の半錠、小児は粒状錠。成人の嚥下困難・経管は個別照会。
6. 参考文献
- エンレスト錠 電子添付文書(第9版, 2025年9月改訂). ノバルティスファーマ
- エンレスト錠 インタビューフォーム(第10版, 2025年9月改訂). ノバルティス ファーマ/大塚製薬
- ENTRESTO Prescribing Information(Novartis US)/ DailyMed(懸濁液=49/51mg錠8錠+Ora-Plus 60mL+Ora-Sweet SF 140mL、200mL・4mg/mL、遮光PET/ガラス瓶、25℃以下15日、冷蔵しない。単シロップ処方ではない)
- EMA Entresto product information(SmPC 6.4:原包装で防湿・温度の特別条件なし)
- Xiong J, et al. Establishment of a cocrystal characterization method for sacubitril valsartan sodium. Yaoxue Xuebao. 2021;56(2):577-584. doi:10.16438/j.0513-4870.2020-1811









