心不全の呼吸困難にオピオイドは使える?使い方と適応外の注意点は?

【質問】心不全による呼吸困難時のオピオイド製剤の使用は適応外だと思うのですが、実際に使われた症例や使い方、適応外の注意点など、参考になる情報がありましたらご教示頂けますと幸いです。

1. 結論

  • 心不全ガイドラインは2025年3月に全面改訂され、「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」が現行です。2017年改訂版と2021年フォーカスアップデート版の日本語PDFは、学会サイトの従来のURLが404を返します1)。
  • 2025年版の推奨表54で、治療抵抗性の呼吸困難へのオピオイドに推奨クラスが付きました。「治療抵抗性の呼吸困難を有する心不全患者に、自覚症状の改善を目的として心不全治療と並行してオピオイドの使用を考慮する」=推奨クラスIIa/エビデンスレベルC-LD1)。
  • 急性心不全と慢性・終末期は分けて考えます。急性心不全のモルヒネはルーチン非推奨で、推奨表にモルヒネの行はありません1)。
  • 適応外はガイドライン自身が明記しています。「心不全では保険適用はないが、激しい咳、疼痛に対して保険診療上使用可能である」1)。

2. 背景

  • 2018年度の診療報酬改定で末期心不全が緩和ケア診療加算の対象に加わり、循環器領域でも緩和ケアが制度上位置づけられました2)。この流れで、呼吸困難へのオピオイドが議論されてきました。
  • ただし「かつては推奨されていたが近年慎重になった」という理解は正確ではありません。2017年版の時点で既にルーチン非推奨で、2025年版も判断を維持しています。変わったのは急性期の評価ではなく、治療抵抗性の呼吸困難に推奨クラスが付いたことです1)。

3. ガイドラインと実際の使い方

  • 【2025年版 推奨表54】呼吸困難へのオピオイドに推奨クラスIIa. 記載は3行です。①「心不全患者に随伴する様々な身体および精神的症状に対して、症状緩和のための治療を行う」=クラスI/C-LD。②「治療抵抗性の呼吸困難を有する心不全患者に、自覚症状の改善を目的として心不全治療と並行してオピオイドの使用を考慮する」=クラスIIa/C-LD。③「オピオイドの使用に際しては、腎機能障害の程度、嘔気、低換気などの副作用の出現に注意し、用量調節を考慮する」=クラスIIa/C-LD。②は治療抵抗性の呼吸困難へのオピオイドに対するグレード付き推奨です。「心不全治療と並行して」が条件です。オピオイド単独ではなく、標準治療への上乗せです1)。

    【急性心不全】ルーチン投与は推奨されない. 2025年版3.4.4の本文には「モルヒネは中枢性に働き呼吸困難や不安の自覚症状を軽減する…交感神経系の抑制により体静脈や細動脈を拡張し、前負荷、後負荷を軽減することにより肺うっ血の軽減が報告されている一方で、過度の低血圧や徐脈には注意を要する。また、嘔気や呼吸抑制の副作用がある。いずれの副作用も用量依存性であり、高齢者や腎不全患者では、より低用量から慎重に用いる。後ろ向きの観察研究では、モルヒネ投与が気管挿管や死亡率の増加と関連したとの報告があり、ルーチンでの投与は推奨されない。」とあります。急性非代償性心不全の推奨表(43〜46)を全て確認しましたが、モルヒネの行はありません1)。

    【適応外の逐語】ガイドラインが自ら明記. 2025年版3.2.1には「治療抵抗性の呼吸困難に対してはオピオイド使用が選択肢となる。末期心不全患者に対するオピオイド使用はエビデンスに乏しいが、がん領域では痛みと比して少量で呼吸困難は緩和されることが知られており、心不全でも少量で使用されている現状がある…塩酸モルヒネは、難治性呼吸困難に対するエビデンスが豊富であり(フェンタニルは推奨されていない)、心不全では保険適用はないが、激しい咳、疼痛に対して保険診療上使用可能である。ただし、塩酸モルヒネは腎代謝であるため、腎障害時は半量や1/4量で使用するなどの工夫が必要となる。」とあります。括弧内のフェンタニルへの言及は2021年提言にない2025年版の追加記載です1)。

    【具体的な投与方法】表63. ガイドラインは表を2021年提言の表を基に塩酸モルヒネ注の備考へ追記したものと注記しています。 コデインリン酸塩=10mg/回 頓用もしくは1日3回/備考「処方量によっては麻薬扱い」。経口塩酸モルヒネ=2.5mg/回 頓用もしくは1日4回/備考「腎障害時は半量より開始」。塩酸モルヒネ注=5〜10mg/日 持続静注・皮下注/備考「腎障害時は半量より開始」「高度腎障害時は1/4量への減量や他のオピオイドの使用も検討」。脚注では、コデインは「呼吸器疾患に伴う鎮咳には保険適用があるが、心不全には適用がない」、モルヒネは「心不全には保険適用はないが激しい咳嗽の症状に対して使用可能。わが国で使用可能な経口塩酸モルヒネは10mg錠であり、粉末での使用を要する」1) 3)。

    【1回量と1日量を混同しない】. 2017年改訂版には急性期の静注量の表がありましたが、2025年版にはありません。ルーチン投与を推奨しない記載は両版に共通です。急性期の1回静注量と、緩和目的の1日持続投与量(5〜10mg/日)は、単位も投与方法も異なるため、混同しないようにします。2017年改訂版の日本語PDFは、学会サイトの従来のURLが404を返します。日本語の原文から数値を引用する際は、手元の保存版を参照します1)。

    【投与の目標】完全に消すことを目指さない. 2021年提言7.2.1には「呼吸困難を完全に消失させるのではなく、日常労作でQOL低下をきたさない程度を目標とすることで過量投与を避けることができる。」「呼吸回数が10回/分以下となる場合や意識障害が遷延する場合には、減量を検討することが推奨されている。」とあります。同項は「末期心不全におけるオピオイド使用は急性心不全における使用よりもエビデンスに乏しく、適切な用量に関するエビデンスは十分ではない」とも記載しています3)。

    【適応外の一次資料】. モルヒネ塩酸塩錠の電子添文の効能又は効果は「激しい疼痛時における鎮痛・鎮静/激しい咳嗽発作における鎮咳/激しい下痢症状の改善及び手術後等の腸管蠕動運動の抑制」。効能の欄に、心不全・呼吸困難・息切れの記載は一切ありません4)。

    【誤読しやすい点】. 2021年提言に「塩酸モルヒネを投与する(推奨クラスI、エビデンスレベルC)」とありますが、急性冠症候群ガイドラインからの引用でACSの胸痛に対するものです。心不全の呼吸困難への推奨ではありません。治療抵抗性の呼吸困難へのグレード付き推奨は、2025年版の推奨表54にあります1) 3)。

4. 関連した質問

  • Q: 適応外ですが、使ってよいのですか?
    A: ガイドラインは適応外と明示したうえで推奨クラスIIaを与えています。 2025年版は「心不全では保険適用はないが、激しい咳、疼痛に対して保険診療上使用可能である」としています。これは激しい咳や疼痛に対して使う場合のことで、呼吸困難への使用が保険適用になるわけではありません。オピオイドは心不全治療と並行して使うもので、標準治療の代わりではありません1)。

 

  • Q: どのくらいの量から始めるのですか?
    A: 経口モルヒネなら2.5mg/回を頓用または1日4回、注射なら5〜10mg/日の持続が開始の目安です。モルヒネ塩酸塩錠は10mgのため、2.5mgを出すには散剤が必要です1) 3)。開始前には、重篤な呼吸抑制や慢性肺疾患に続発する心不全など、電子添文の禁忌に当たらないかを確認します4)。

 

  • Q: 腎機能が悪い患者ではどうしますか?
    A: 半量から、高度腎障害では1/4量への減量や他のオピオイドも検討します1)。ガイドラインは「腎代謝」としていますが、電子添文では、モルヒネは肝臓でグルクロン酸抱合を受けるとされています。腎機能障害では排泄が遅延し、副作用があらわれるおそれがあります4)。心不全患者には腎機能低下の合併が多く、特に注意が必要です。フェンタニルは推奨されていないと2025年版に明記されています1)。

 

  • Q: 急性心不全でも使えますか?
    A: ルーチンでの投与は推奨されていません。 後ろ向き観察研究で気管挿管や死亡率の増加との関連が報告されており、推奨表にモルヒネの行はありません。2017年版から一貫した判断です。推奨クラスIIaは治療抵抗性の呼吸困難への推奨で、急性期の第一手ではありません1)。

5. まとめ

  • 心不全ガイドラインは2025年3月に全面改訂。旧版の日本語PDFは従来のURLが404。引用は2025年改訂版へ
  • 推奨表54で治療抵抗性の呼吸困難へのオピオイドが推奨クラスIIa/エビデンスレベルC-LD
  • 「心不全治療と並行して」が条件。オピオイド単独ではなく標準治療への上乗せ
  • 急性心不全のモルヒネはルーチン非推奨(2017年版から一貫)。推奨表に行がない
  • 適応外はガイドラインが明記。「心不全では保険適用はないが、激しい咳、疼痛に対して保険診療上使用可能」
  • 開始量は経口モルヒネ2.5mg/回、注射5〜10mg/日持続。腎障害時は半量から開始、高度なら1/4量への減量等を検討。モルヒネ塩酸塩錠は10mgで、2.5mgには散剤が必要
  • 目標は完全に消すことではなく、日常労作でQOLが下がらない程度。呼吸回数10回/分以下や意識障害の遷延で減量を検討

6. 参考文献

  1. 日本循環器学会/日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(推奨表54 p.127、3.4.4 p.110、3.2.1・表63 p.190) PDF
  2. 厚生労働省. 平成30年度診療報酬改定(緩和ケア診療加算の対象疾患に末期心不全を追加). 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(平成30年3月5日 保医発0305第1号)別添1 A226-2(PDF p.54) PDF
  3. 日本循環器学会/日本心不全学会. 2021年改訂版 循環器疾患における緩和ケアについての提言(7.2.1 p.37、表12、第2章3.1 p.59) PDF
  4. モルヒネ塩酸塩錠10mg「DSP」電子添付文書(2024年11月改訂 第3版). 住友ファーマ PMDA
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