アスピリン喘息患者にサリチル酸メチル含有外用剤は使えるか?

 

【質問】アスピリン喘息患者に対するサリチル酸メチル外用剤使用の安全性について。添付文書では禁忌に該当しません。が、調べてみると安全と言い切れる訳ではないので慎重に投与という記載があったり、はたまた内科学会雑誌では、ほぼ安全と記載を見受けました。サリチル酸メチルは弱いながらもCOX-1阻害作用があるようなので、実際現場ではどのような安全性の位置づけとなるのかご教示いただけますと幸いです。

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1. 結論

サリチル酸メチル含有外用剤、特にMS温シップ・MS冷シップのような製剤は、添付文書上では、アスピリン喘息を一律禁忌とはしていません。一方で、サリチル酸メチルは経皮吸収され、皮膚内・体内でサリチル酸へ加水分解されます。サリチル酸自体のCOX-1阻害はアスピリンと異なり弱く、限定的と考えられていますが、アスピリン喘息患者『AERD(aspirin-exacerbated respiratory disease)とNERD(NSAIDs-exacerbated respiratory disease)』などで安全性が検証・確立されているわけではありません。

そのためケトプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン等の外用NSAIDsは禁忌として扱い、サリチル酸メチル含有外用剤は「COX-1を強く阻害する外用NSAIDsより低リスクだが、リスクがないわけではない薬剤」と位置づけるのが適切と考えられます。使用する場合は、喘息が安定した患者に限り、少ない枚数・短期間など、慎重に使用し、喘鳴・息苦しさ・鼻症状・顔面紅潮・蕁麻疹などが出た場合は直ちに除去・中止し、医療機関を受診するよう指導します1) 2) 3) 4)


2. 背景

アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、AERD・NERD)は、NSAIDsによるCOX-1阻害でPGE2が低下し、システイニルロイコトリエン(LTC4, LTD4, LTE4)が過剰に産生されることで気管支収縮や鼻症状を引き起こす非アレルギー性過敏症です4)。「ほぼ安全」と「慎重投与」という記載は、資料間で評価に違いがあると考えられます。日本内科学会雑誌では、酸性NSAIDsの貼付薬・軟膏・点眼薬は禁忌寄りに扱う一方、「NSAIDsを含まずサリチル酸を主成分とした湿布(例: MS冷シップ)」は「ほぼ安全」に分類しつつ、不安定例では発作が誘発される可能性も示されています5)。一方、岡山大鵬薬品工業のFAQは「電子添文上の制限はない」としつつ、アスピリン喘息との関係について調査・研究は行われておらず、安全性は確立していないため慎重判断、という立場です9)。つまり「ほぼ安全」とされる資料の評価は、強いCOX-1阻害型外用NSAIDsより低リスクという臨床上の位置づけであり、AERD/NERD患者で安全性が検証・確立されている意味ではありません。


3. 報告

サリチル酸メチル含有製剤の添付文書(国内)
MS温シップ「タイホウ」、MS冷シップ「タイホウ」では、禁忌は「本剤に対し過敏症の既往歴のある患者」のみで、アスピリン喘息は禁忌欄・慎重投与欄ともに記載されていません。MS温シップは膏体100g中にサリチル酸メチル1.0g、MS冷シップは2.0gを含有します1)

外用NSAIDsの添付文書(対比)
ケトプロフェンテープ、ジクロフェナクゲル、インドメタシン外用は、いずれもアスピリン喘息又はその既往歴のある患者を禁忌としています。ケトプロフェン製剤では重大な副作用として「アスピリン喘息(喘息発作の誘発)」が明記され、貼付後数時間で発現することがあるとされています2) 3)

岡山大鵬薬品工業 製品FAQ
MS温シップについて「アスピリン喘息の患者に対し、禁忌等、電子添文上での制限はない。しかし本剤とアスピリン喘息の関係は調査・研究されておらず、安全性は確立していない。使用を検討する際は十分観察し慎重に判断」と整理しています9)

重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚労省・PMDA)
AERDはCOX-1阻害作用をもつNSAIDsにより誘発される非アレルギー性過敏症で、COX-1阻害が強いNSAIDsほど症状を起こしやすいとされています。注射薬・坐薬・内服薬の順に症状が早く重篤で、貼付薬・塗布薬・点眼薬も禁忌と考える、と記載されています4)

サリチル酸メチルの経皮吸収データ
FDAのNDA 22-029 Clinical Pharmacology Reviewでは、メチルサリチレート10%+メントール3%含有のサロンパスパッチを4枚・8時間貼付した条件で、全被験者24例におけるベースライン補正後のCmaxは、サリチル酸で約1,651ng/mL、メチルサリチレートで約13.2ng/mLと報告されています6)。これはサリチル酸メチル含量1〜2%の国内のMSシップとは製剤条件が異なるため、リスク評価にそのまま当てはめることはできません。「サリチル酸メチルは経皮吸収され、血中サリチル酸濃度が上がりうる」という根拠はあるということです。EU SCCSの評価では、総吸収率は試験条件により3〜93%と大きな幅があり、密封・濃度・基剤・皮膚状態で変動するため、リスク評価上は50%の吸収を用いるべきとされています7)

NERD患者での外用NSAID/サリチル酸中止による喘息改善(Tan JHY, Hsu AAL. Respir Med 2016;118:1-3)
NSAID過敏・鼻茸/慢性副鼻腔炎・喘息コントロール不良・外用NSAID曝露を有する11例で、外用NSAID(サリチル酸含有OTC medicated oil、NSAIDゲル、プラスターを含む)の中止後、喘息コントロールテスト(ACT) 14.9→22.1、増悪回数 1.9→0.43回、FEV1 1.28→1.67Lへ有意に改善しました。サリチル酸メチル含有湿布単独のリスクを数値で評価した研究ではなく、NERD/AERD患者では外用でのCOX-1阻害関連の曝露も見逃せない、という注意喚起の根拠として位置づけられます8)

メントール/サリチル酸メチル外用後のAERD症例報告(Foong NZE, et al. Ann Allergy Asthma Immunol 2018;120:535-536)
メントール/サリチル酸メチルを含む外用medicated oil使用後に、AERD患者で重篤な喘息発作を呈した症例報告があります10) 11)

サリチル酸メチルのCOX阻害特性
サリチル酸メチルは経皮吸収後にサリチル酸へ加水分解され、非アセチル化サリチル酸として作用します。非アセチル化サリチル酸はアスピリンと異なりCOX阻害は弱く可逆的ですが、salsalate負荷試験ではアスピリン感受性喘息10例中2例で軽度反応が報告されており、ゼロリスクとは言えません12)


4. 関連した質問

Q1. 患者にサリチル酸メチル含有湿布を提案する際、どのような点を確認すべきか?
A: 喘息のコントロール状況、過去のNSAIDs(内服・外用)での反応歴、使用予定の範囲・期間、皮膚の状態を確認します。喘息が不安定、外用剤で症状歴あり、広範囲・長期使用予定の使用は避けます。

Q2. 温感タイプ(MS温シップ)は冷感タイプ(MS冷シップ)より吸収が多いか?
A: 直接比較データはありませんが、温熱・入浴直後・発汗・密封では経皮吸収や皮膚刺激が増える可能性があり、AERD/NERD患者では避けるのが安全です。

Q3. 貼付直後ではなく数時間後に喘鳴が出た場合、サリチル酸メチル含有湿布が原因と考えられるか?
A: 可能性はあります。AERD反応は通常服用後1時間以内ですが、徐放錠や経皮製剤では遅れて出ることがあると報告されています4)。貼付後数時間以内に呼吸器症状が出た場合は直ちに除去・中止し、医療機関を受診するよう指導します。

Q4. ケトプロフェン外用剤が処方された患者がアスピリン喘息既往と判明した場合、どう対応するか?
A: ケトプロフェンはアスピリン喘息又はその既往歴が禁忌のため疑義照会が必要です2)。代替案としては、外用NSAIDsを含まない選択肢を優先します。サリチル酸メチル含有外用剤は、主治医判断のもと、少ない枚数や短期間で慎重に使用します。アセトアミノフェン内服を検討する場合も、高用量(1回500mg以上)では反応する例があるとされるため5)注意が必要です。


5. まとめ

  • サリチル酸メチル含有外用剤は、強いCOX-1阻害型の外用NSAIDsよりリスクが低いがゼロリスクではない。
  • 使用を提案する場合は、喘息コントロール良好・小範囲・短期間・健常皮膚・温熱や密封なしという条件下に限定する。
  • 強COX-1阻害を阻害する外用NSAIDs処方時にアスピリン喘息既往がわかった場合は疑義照会し、サリチル酸メチル含有外用剤や非薬物療法への変更を提案することが望ましい

6. 参考文献

  1. MS温シップ「タイホウ」/MS冷シップ「タイホウ」電子添文. 岡山大鵬薬品工業
  2. モーラステープ(ケトプロフェン)添付文書. 久光製薬
  3. ナボールゲル1%(ジクロフェナクナトリウム)添付文書. 久光製薬
  4. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作. 厚生労働省・PMDA
  5. 谷口正実. アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の診断と治療. 日本内科学会雑誌. 102(6):1426-
  6. FDA. NDA 22-029 Original Clinical Pharmacology Review (サロンパスパッチ, methyl salicylate 10% + menthol 3%). U.S. Food and Drug Administration. 2008
  7. SCCS Opinion on Methyl salicylate (methyl 2-hydroxybenzoate). EU Scientific Committee on Consumer Safety. 2022
  8. Tan JHY, Hsu AAL. Nonsteroidal anti-inflammatory drug exacerbated respiratory disease phenotype: Topical NSAID and asthma control — A possible oversight link. Respir Med. 2016;118:1-3
  9. 岡山大鵬薬品工業 製品FAQ. MS温シップ「タイホウ」とアスピリン喘息
  10. Foong NZE, et al. Severe life-threatening asthma precipitated by a topical nonsteroidal anti-inflammatory drug. Ann Allergy Asthma Immunol. 2018;120:535-536
  11. Menthol/methyl-salicylate. Reactions Weekly. 2018
  12. Stevenson DD, et al. Cross-reactivity to acetaminophen and salsalate in patients with aspirin-exacerbated respiratory disease. Ann Allergy Asthma Immunol(関連レビュー)
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