心不全治療中の高カリウム血症の場合、MRAの継続か中止か?

【質問】心不全でARB/ACEとMRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)を併用している症例で高K血症となった場合、一律にMRAを中止することが多いのですが(その後再開されないこともしばしば・・・/循環器科の医師ではないこともあり・・・)、心保護作用などを考えるとそれが適切なのか判断に迷うことがあります。個々の心機能の程度で対応は異なるとは思うのですが、根拠となるデータなども含めて、他のご施設ではどのように対応されているのかご教示頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。

【回答】

回答① MRAは第二世代ですか?心保護腎保護等、RAS系MRAの効果はかなり大きいと思います。血清K値やその時の全身状態にもよりますが、服薬に問題がなければ、カリウム吸着剤を投与しながら継続をしていただいております。中には、入院中の差し入れ等で果物や野菜ジュースを取っていた例もあります。長期的な効果を考えると、可能な限り継続すべきかと思いますが、いかがでしょうか。


回答②

MRA(アルドステロン拮抗薬)は、HFrEF(左室駆出率が低下した心不全)治療において、ARNIやβ遮断薬、SGLT2阻害薬と並ぶ「主要な薬物治療の柱」の一つです。RALES試験(重症心不全におけるスピロノラクトン)、EPHESUS試験(急性心筋梗塞後のエプレレノン)、EMPHASIS-HF試験(NYHA IIのHFrEFにおけるエプレレノン)など、多数の大規模臨床研究によって死亡率・入院率を有意に低下させる「心保護作用」が示されています。そのため、高カリウム血症のリスクがある場合でも、可能な限りMRAの投与継続を目指すことが、臨床現場で一般的に推奨されています。

MRAの継続が推奨される理由として、死亡率・入院率を大きく低下させることが挙げられます。RALES試験では、重症心不全(NYHA III-IV, LVEF<35%)においてスピロノラクトンが死亡率を約30%減少させました。エプレレノンについても、急性心筋梗塞後の心不全(EPHESUS試験)やNYHA IIのHFrEF(EMPHASIS-HF試験)において、同様の有意な予後改善が示されています。これらの効果は特にARB/ACE阻害薬との併用時に顕著であり、高カリウム血症を理由に中断すると、死亡率・入院率の低下や予後改善を得ることができません。

高カリウム血症への対策としては、食事内容の見直し、併用薬の再検討、腎機能や脱水状態の評価などを行います。MRAの継続を可能にするための調整方法としては、減量や分割投与の検討、ARB/ACE阻害薬の用量調整、新しい世代のMRA(エサキセレノン・フィネレノン)への切り替えなどが考えられます。

カリウム吸着剤の使用も重要な選択肢です。軽度から中等度の高カリウム血症では有効です。


MRAは心不全治療における重要な薬剤であり、高カリウム血症が発生した場合でも、中止ではなく、継続を検討することが推奨されます。患者のリスク・ベネフィットバランスを考慮しつつ、用量調節、併用薬の調整、カリウム吸着剤の使用、生活指導などで継続を目指すことが望ましいと考えられます。特に軽度から中等度の高カリウム血症では、これらにより継続可能なケースが多く、長期的な予後改善につながります。心不全患者におけるMRAの治療効果は大きいため、主治医や循環器科との連携のもと、可能な限り継続することが望ましいと考えられます。

RALES試験. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10589274/

EPHESUS試験 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11923800/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24706498/

EMPHASIS-HF試験 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37370197/

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