【Q】PPIによる下痢の副作用は?機序は?

【A】PPI (プロトンポンプ阻害薬) による下痢の副作用は膠原性大腸炎(collagenous colitis) やクロストリジウム・ディフィシル感染症が原因と考えられます。膠原性大腸炎が起こる理由としては大腸上皮細胞のプロトンポンプを阻害し、大腸粘膜分泌物の成分が変化することが一因とされています。また、クロストリジウム・ディフィシル感染症が起こる理由としてはPPI服薬により、胃内のpHが上昇することで、胃酸によって死滅する病原菌が腸管まで到達してしまうことにより腸内細菌叢が乱れることが一因と考えられています。PPIを中止することで下痢が改善された症例も多数報告されています。

・膠原性大腸炎(collagenous colitis) ‥慢性水溶性下痢の原因であり、大腸内視鏡所見がほぼ正常で病理学的に特徴的な炎症所見を呈する疾患。大腸生検にて粘膜上皮直下に10μm以上のcollagen bandの形成と炎症細胞湿潤を認める。CCの要因については解明されていない。原因薬としてはNSAIDsやPPIやSSRIなどが考えられる。
・PPIが膠原性大腸炎(collagenous colitis) を発症させる機序は大腸上皮細胞のプロトンポンプを阻害することによって大腸粘膜分泌の組成やpHが変化し、粘膜局所の免疫反応が誘導補強され、炎症や組織修復性の膠原線維が沈着する。
・2009年時点で日本での報告は182例で男女比は50 : 132, 平均年齢は69.9歳、ランソプラゾール服用例93例 (内服期間は3日から2年) 。ランソプラゾール中止による症状軽快は90.4%と高値。
・ラベプラゾールなどの他のPPIでも報告あり。
・ランソプラゾールを中止すると下痢が消失したという症例報告がある。

・2012年にPPIの使用にてクロストリジウム・ディフィシル感染症やその他の腸管感染症が増加したというメタアナリシスの報告があります。(Am J Gastroenterol 2012; 107:1001.)

参考文献
• Collagenous colitisを発症した腹膜透析患者の1例, 透析会誌47(6):387〜393,2014
• 当院でみられたcollagenous colitis7例の臨床的検討, 三菱京都病院医学総合雑誌22:8-12, 2015)
• ランソプラゾール中止にて下痢が改善したcollagenous colitisの1例-本邦の報告例182例の集計結果を含む- ENDOSCOPIC FORUM for digestive disease 2011; 27: 30‒53
• Chande N, Driman DK. Microscopic colitis associated with lansoplasole: report of two cases and a reviewof the literature. Scand J Gastroenterol 2007; 42:530‒3
• Janarthanan S, Ditah I, Adler DG, Ehrinpreis MN. Clostridium difficile-associated diarrhea and proton pump inhibitor therapy: a meta-analysis. Am J Gastroenterol 2012; 107:1001.
• Association of Gastric Acid Suppression With Recurrent Clostridium difficile Infection:JAMA Intern Med. 2017 Jun 1;177(6):784-791.
• Clostridium difficile-associated disease.JAMA. 2005 Dec 21;294(23):2989-95.
• Risk factors associated with complications and mortality in patients with Clostridium difficile infection. Clin Infect Dis. 2011 Dec;53(12):1173-8
• Proton pump inhibitors and risk for recurrent Clostridium difficile infection. Arch Intern Med. 2010 May 10;170(9):772-8.

 

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