レボチロキシン錠 (チラーヂン)は食後投与よりも食前投与のほうが効果が高いか?

【質問】チラーヂンは、食前の方が吸収がよいのですか?

【A】レボチロキシンは、一部の金属(アルミニウムや鉄など)や特定の飲食物 (コーヒー、食物繊維、グレープフルーツ、パパイヤ、大豆製品など)と同時に摂取することにより、その吸収率が低下する可能性がある成分です。レボチロキシンの通常用量が25μg-400μgと微量であることからも、わずかな吸収低下であっても、その薬効に大きな影響を及ぼす可能性があります。

以上から、吸収低下のリスクを少しでも下げるために、レボチロキシンは食後の服用を避ける方が望ましいと考えられます。


【解説】レボチロキシンはアルミニウム(AI)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ランタン(La)を含む医薬品や健康食品と同時に摂取すると、レボチロキシンの効果が低下する可能性があります。この理由は、レボチロキシンが構造式上でカルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基を持ち、金属とキレートを形成しやすいためです。消化管内で金属キレートの形成や吸着によって、レボチロキシンの吸収が阻害されます。

また、レボチロキシンの用量が25μg-400μgと微量であることから、影響を大きく受ける可能性があります。健康食品や総合ビタミン剤の使用にも注意が必要です。

食事はレボチロキシンの生物学的利用率を約20%低下させることがあります。小麦や大豆、青汁などの食物繊維が多い食品はレボチロキシンの吸収や効果の発現を遅延させる可能性があります。こちらも、食事中に摂取した金属とのキレート形成や食物繊維によるレボチロキシンの吸着が一因と考えられます。。

以上よりレボチロキシンは朝食前の30分から60分に服薬することが推奨されます。朝食30分前に服用しても効果が十分に発現しない場合は、朝食60分前に服用することでレボチロキシンの効果が十分得られる可能性があります。
(薬と相互作用としくみ -第2版-  第1節 物理化学的変化 p22-23)

コーヒーとレボチロキシンの相互作用
この報告では、コーヒーが甲状腺ホルモン(T4)の腸からの吸収阻害する可能性を示唆している。患者がコーヒーとともにT4を摂取した結果、血清中のT4やAUCが減少し、血清T4増加時間が遅延した。コーヒーがT4の吸収を阻害し、その結果として甲状腺機能に影響を及ぼす可能性があることを示している。
(Altered intestinal absorption of L-thyroxine caused by coffee Thyroid 2008 Vol. 18 Issue 3 Pages 293-301)

 

グレープフルーツジュースとレボチロキシンの相互作用
グレープフルーツジュースは、レボチロキシンの血清濃度を低下させる可能性がある。グレープフルーツジュースの摂取がレボチロキシンの吸収をわずかに遅らせる。ただし、レボチロキシンのバイオアベイラビリティへの影響はわずかであり、グレープフルーツジュースとレボチロキシンの間の相互作用は限定的とも考えられる。
(Effects of grapefruit juice on the absorption of levothyroxine. Br J Clin Pharmacol 2005 Vol. 60 Issue 3 Pages 337-41)

 

大量のパパイヤとレボチロキシンの相互作用
大量のパパイヤ摂取がレボチロキシンの有効性を低下させる可能性がある。一例の症例報告で、大量のパパイヤを摂取した患者のTSH値が上昇し、パパイヤを中止すると正常値となった。原因は不明であるが。パパイヤに含まれるパパインが胃酸分泌を減少させ、パパイヤからの繊維がT4の吸収を阻害したりする可能性が考えられた。
(Ingestion of large amounts of papaya fruit and impaired effectiveness of levothyroxine therapy. Endocr Pract 2012 Vol. 18 Issue 1 Pages 98-100)

 

大豆製品とレボチロキシンの相互作用
先天性甲状腺機能低下症の2例を通じて、大豆製品がレボチロキシンの吸収を阻害し、治療に影響を及ぼす可能性が示された。大豆ミルク摂取により甲状腺機能低下症が継続した患者は、大豆製品を中止しレボチロキシンを調整することで改善した。これは、大豆製品が特に成長期の甲状腺機能低下症患者にリスクをもたらす可能性を示唆している。
(Unawareness of the effects of soy intake on the management of congenital hypothyroidism Pediatrics 2012 Vol. 130 Issue 3 Pages e699-702)

 

甲状腺乳頭癌治療後の甲状腺機能低下症女性が大豆蛋白サプリメントとレボチロキシンを同時に摂取し、甲状腺ホルモンの値を抑制するのに高用量のレボチロキシンが必要であった。大豆サプリメント摂取とレボチロキシン投与のタイミングずらすことで、低用量のレボチロキシンでも効果があった。結大豆蛋白とレボチロキシンの同時摂取はレボチロキシンの吸収を阻害する可能性がある。
(Use of soy protein supplement and resultant need for increased dose of levothyroxine. Endocr Pract 2001 Vol. 7 Issue 3 Pages 193-4)

 

閉経後の女性12名を対象にしたクロスオーバー方式の試験で、大豆イソフラボンとレボチロキシンの併用がレボチロキシンの吸収に影響を及ぼさないことが示された。大豆イソフラボンとレボチロキシンのCmax(最大血中濃度)およびAUCt(時間に対する血中濃度の曲線下の面積)の比率は1.02と0.99で、これらは許容範囲内であった。
(Evaluation of Levothyroxine Bioavailability after Oral Administration of a Fixed Combination of Soy Isoflavones in Post-menopausal Female Volunteers. Drug Res (Stuttg) 2016 Vol. 66 Issue 3 Pages 136-40)

 

鉄とレボチロキシンの相互作用
原発性甲状腺機能低下症患者で硫酸第一鉄の摂取がレボチロキシンの吸収を阻害し、甲状腺機能低下症を引き起こした。レボチロキシン増量で症状は改善したが、硫酸第一鉄中止後に甲状腺機能亢進症が発生した。
(Ferrous sulfate-induced increase in requirement for thyroxine in a patient with primary hypothyroidism. South Med J 1997 Vol. 90Issue 6 Pages 637-9)

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