【質問】ステロイドの換算についてです。点鼻や吸入、点眼など、外用ステロイドを使用継続していると、少量とはいえ血中に移行する可能性があるかと思いますが、各成分をプレドニゾロン換算することは可能なのでしょうか?添付文書にもAUCやCmaxが記載されている薬剤がありますが、どの程度血中に入ると免疫抑制などの影響が出るのか、指標や基準がわかりません。
外用ステロイドはほとんど血中移行や全身作用はないものと思っていましたが、コロナの影響があるので免疫抑制は避けたい、アドエアを中止として頓用のメプチンのみに切り替わった処方がきました。ここまで敏感になる必要はあるのでしょうか?
【A】吸入ステロイドは経口薬と比較して、全身への移行性は低いため、吸入ステロイドによる感染防御機能の抑制は全身投与に比べ、低いと考えられます。しかし、感染症が増悪する可能性は存在します。そのため、吸入ステロイドが含有された吸入薬は禁忌項目に【有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者】が明記されています。その理由として、インタビューフォームには「吸入ステロイド剤は、全身性ステロイド剤に比べ発現は少ないと考えられるが、免疫抑制作用により感染症が増悪するおそれがある。」と記載されています。
ステロイドの換算は【コルチゾン 25mg= ヒドロコルチゾン20mg= プレドニゾロン5mg= トリアムシノロン4mg= メチルプレドニゾロン4mg= デキサメタゾン0.5~0.75mg= ベタメタゾン0.5~0.75mg】のデータしか存在しないため、現在発売されている吸入に含有されているステロイドをプレドニゾロン換算したデータは存在しません。
重度の喘息患者は、全身へのステロイドの作用が少ないことや、糖質コルチコイド受容体結合率や肺への到達割合によって、有効性や薬物動態が変わるため、一概には、どの程度、血中に入ると免疫抑制などの影響が出るかは、明らかになっておりません。
https://closedi.jp/5390/
ステロイドの吸入薬の効果は「粒子サイズ」、「糖質コルチコイド受容体への結合親和性」、「肺への滞留時間」、「脂質性」に依存する。(Eur Respir J. 28(5):1042-50, 2006)
→経口剤のようにステロイドの抗炎症作用や電解質作用で換算された表がありますが、吸入薬には「粒子サイズ」、「糖質コルチコイド受容体への結合親和性」、「肺への滞留時間」、「脂質性」などの因子が関連するため、プレドニゾロン換算することは困難と考えられます。
https://closedi.jp/2368/
吸入薬は糖質コルチコイド受容体結合率や肺への到達割合によって、有効性や薬物動態が変わるため、一概には、どの程度、血中に入ると免疫抑制などの影響が出るのか明らかになっていない。(Ann Pharmacother. 43(3):519-27, 2009)
→吸入薬のステロイド成分はどの程度、血中に入ると、全身作用が発現するかは明らかになっていません。
重度の喘息患者では、それ以外の患者と比較して、全身へのステロイドの暴露が少ない。肺からの吸収後は初回通過効果がないため、腸から吸収された薬物と比較して、全身への影響が比較的大きくなると考えられる。また、重度の喘息患者では、吸気力が低下しており、肺末梢への到達割合が低下するため、全身へのステロイドの暴露が少なくなると考えられる。(Lancet. 12;356(9229):556-61, 2000)
→重度の喘息患者は、全身へのステロイドの作用が少ないと報告されています。
シクレソニドは粒子の大きさが治療に適しているため、呼吸器疾患患者に対する肺沈着率が高い。シクレソニドは不活性であるが、肺で活性代謝物であるデスイソブチリルシクレソニドとなる。そのため、全身への暴露が少ない。また、経口バイオアベイラビリティが低く、クリアランスが高く、タンパク結合率が高いことからも全身への暴露が少ないと考えられる。(Clin Pharmacokinet. 48(4):243-52, 2009)
シクレソニド(CIC)とプロピオン酸フルチカゾン(FP)の全身効果と臨床効果を比較
コルチゾール分泌は中程度から高用量の「プロピオン酸フルチカゾン」で有意に抑制されましたが、「シクレソニド」では抑制されませんでした (Eur Respir J. 33(6):1277-86, 2009)
→シクレソニドは全身への暴露が少ないと報告があります。
フルティフォーム エアゾール
禁忌 (次の患者には投与しないこと)
有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者 [ステロイドの作用により症状を増悪させるおそれがある。][解説]
副腎皮質ホルモン剤(以下ステロイド剤)の注意事項として設定した。 本剤の有効成分であるフルチカゾンプロピオン酸エステルはステロイド剤である。 ステロイド剤は、炎症・免疫に関わるサイトカインや接着分子の発現を抑制し、白血球、単球及びマクロファ ージの局所への浸潤を抑える。さらに、ホスホリパーゼ A2 の発現を抑え、プロスタグランジンやロイコトリエン の産生も低下させて抗炎症・免疫作用を発揮する。この結果、易感染性をもたらすとともに、感染の非顕性化 により感染が見逃されやすくなるおそれがある。 有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者に本剤を投与すると、症状が増悪するおそれがあるの で、このような患者には投与を禁忌とした。
特定の背景を有する患者に関する注意
感染症(有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症を除く)の患者
ステロイドの作用により症状を増悪させるおそれがある。[解説]
吸入ステロイド剤は、全身性ステロイド剤に比べ発現は少ないと考えられるが、免疫抑制作用により感染症が増悪するおそれがある。感染症の患者には慎重に投与すること。
(フルティフォーム エアゾール インタビューフォーム )
アドエア ディスカス
禁忌 (次の患者には投与しないこと)
有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者[ステロイドの作用により症状を増悪するおそれがある](解説)
感染症患者に対する投与
ステロイド剤の強力な免疫抑制作用、抗炎症作用は生体の感染防御機能を低下させ、日和見感染の誘発につながるとされている。また、ステロイド剤の抗炎症作用による解熱等見かけ上の症状改善のため、感染 症の増悪が見逃されるおそれがある。・有効な抗菌剤の存在しない感染症 : バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症や多剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症などの多種の抗菌剤に耐性を示す感染症など。
(アドエア ディスカス インタビューフォーム)