【Q】ヘパリンロック10単位や100単位製剤の使い分けは?

【質問】ヘパリンロックについて質問です。ロック時間により使い分けることがあるかと思いますが、これは「大は小を兼ねる」的な考えではダメなのでしょうか?  また、小児や短時間ロックの場合に100単位製剤を使うときは量の調節も必要なのですか?

【A】ヘパリンロックの10単位と100単位の使い分けは、基本的には添付文書の通り、【10単位/mL製剤は通常6時間までの、100単位/mL製剤は12時間までを標準とし最長24時間までの静脈内留置ルート内の血液凝固防止(ヘパリンロック)に用いる。】となります。

10単位/mL製剤は通常6時間までの、100単位/mL製剤は12時間までを標準とし最長24時間までの静脈内留置ルート内の血液凝固防止(ヘパリンロック)に用いる。
(添付文書 : ヘパリンNaロック用10単位/mLシリンジ「オーツカ」10mL)

また、ヘパリンの重大な副作用としてHITがありますが、ヘパリンフラッシュによる HIT (ヘパリン起因性血小板減少症)の発症はまれであり,0.1%未満と報告されています。
(Treatment and Prevention of Heparin-Induced Thrombocytopenia Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines
Chest. 2012 Feb; 141(2 Suppl): e495S–e530S.)

※ヘパリン起因性血小板減少症 (heparin‒induced thrombocytopenia: HIT) は抗凝固薬であるヘパリンが自己抗体により、心筋梗塞や肺塞栓、下肢の急性動脈閉塞症などの重大な血栓性合併症を引き起こすことです。

さらに、ヘパリンは脳出血、消化管出血、肺出血、硬膜外血腫、後腹膜血腫、腹腔内出血、術後出血、刺入部出血等、重篤な出血の副作用が発現する可能性があります。ただし、これらの副作用はヘパリンロックの10単位と100単位で発生頻度を比較した試験や報告はありません。

 

2012年から2018年までのメタアナリシスにおいてへパリン濃度にかかわらず中心静脈栄養の患者においては、生食ロックと開通性の維持には変わりなかったと報告されています。しかし、この研究はエビデンスの質は高くなく、さらなる調査が必要と結論づけられています。(Heparin flush vs. normal saline flush to maintain the patency of central venous catheter among adult patients: A systematic review and meta-analysis)

 

一方で、メタアナリシスの論文において、10単位/mLのヘパリンロックは生食ロックとカテーテルの開通性の維持の差はありませんでしが、100単位/mLのヘパリンロックは開通性が高く、カテーテル関連の静脈炎を減らすと報告されています。(Benefit of heparin in peripheral venous and arterial catheters: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 1998 Mar 28; 316(7136): 969–975.)

 

以下は上記を踏まえた考察となります。

・ヘパリンロック10単位と100単位の使用による副作用の頻度の比較に関する報告はありませんが、用量が多くなると出血などの副作用が出やすくなる可能性があります。

・長時間ロックを行う場合や、中心静脈などのリスクが高い患者、閉塞しやすい患者であればヘパリンロック100単位/mL製剤が望ましいと考えられますが、それ以外であれば、副作用の観点からヘパリンロック10単位や生食ロックでも可能とは考えられます。

・小児に対しては、出血のリスクやHITのリスクを軽減するために、ヘパリンロックの単位数が少ない方が望ましいと考えられますが、「中心静脈か末梢静脈か」、「閉塞のしやすさ」、「年齢」などを考慮した上で各施設が使用濃度の選択をする必要がありそうです。

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