【質問】入院された患者の持参薬に前立腺肥大症の薬剤(ザルティア等)がありましたが、後日透析導入となりました。 そもそも、無尿である透析患者に前立腺肥大症の薬剤を継続する意義としてどういったものが考えられるでしょうか。
【A】透析患者が前立腺肥大症を併発している症例は多くみられます。透析患者において無尿でなく、尿量が継続されることもあり、尿意切迫感や残尿感の改善、尿路感染症の予防目的に前立腺肥大症の治療薬が使用されることがあります。以下に詳細を記載します。
・前立腺肥大症は50歳代からが多く、透析を行っている患者においても前立腺肥大症を併発しているケースがあります。
・一般的には、透析開始後の尿量は急速に減少します。最終的には無尿になりますが、透析開始後から無尿になるまでの経過期間は個人差があり、数年経過することもあります。よって、透析導入時には無尿ではないことが多くあります。
・無尿や乏尿であるにもかかわらず尿意感、尿意切迫感,残尿により繰り返す尿路感染症が報告されています。(腎と透析 70 : 975‒957, 2011)
・一般的に,透析を開始すると徐々に尿量が低下し乏尿や無尿となるため,前立腺肥大症の病態としての意義はないとされています。
(透析会誌 47 ( 7) : 447-451, 2014)。一方で、透析患者において腎機能が保存され、尿量が継続されることは、体液・電解質バランスの調整を促進し、栄養状態1)や生存率2)を高めることが報告されています。腎機能が大きく低下していても、無尿と比較して死亡リスクを低下させる3)ことも報告されています。
1) Nephrol Dial Transplant. 15 (3) : 396, 2000 2) Nephrol Dial Transplant. 18 (5) : 977, 2003 3) Am J Kidney Dis. 38 (1) : 85, 2001・腹膜透析患者は血液透析患者と比較して、乏尿(自己申告の尿量が200mL/日未満)が65%低下したと報告もあり、透析の種類によっても尿量が異なります。(J Am Soc Nephrol 11 : 556, 2000)
・前立腺肥大症の治療はα遮断薬を中心とした保存的治療が選択されますが、起立性低血圧や透析中の血圧低下のリスクがあり、α遮断薬以外のザルティア等が選択されるケースもあります。