透析患者に対するワーファリンの用量調節について

【質問】透析患者にWfが導入されたのですが少量から開始していても急にINRが3〜4と過延長になったりと用量調整が定まらないことが多く上手くいきません。 透析患者に対するワーファリンのエビデンス、用量調整の注意点、推奨INRについてご教示ください。

回答① Wfの服用目的によってもPT-INRの目標値は変わると思いますが、そもそも透析時に抗凝固薬を使用しているため、非透析の方と比較して、出血傾向にあると考えてよいと思います。ですから一般的に言われるPT-INR 2~3よりも低値の1.5~2の間でコントロールすることが多いです。また、日常生活上の注意点として、食事摂取の状況は確認しておくべきでしょう。透析患者では食事制限もあり、食が進まないかたも多いです。食事摂取の量と質が大きなばらつきがあるとWfのコントロールに大きく影響するため、この点についての確認も必要と考えます。また、内服薬や透析時に投与する薬剤が変更となる際には、相互作用による影響が及ぶことが多いので常に把握する必要があります。

こまめに血液検査で確認して、投与量の調節するしか方法はありませんが、幸い透析患者さんは頻回に採血されているので、データを見ながら微調整できるのではないでしょうか。0.125~0.25mg単位で微調整することもあります。参考まで。

https://aifaq.aipharma.jp/user/#/searchBulletinBoard?id=1647&timestamp=1738457684525


回答② 日本透析医学会のガイドラインではPT-INR<2.0とされています。ご意見をいただいておりますが、透析患者はヘパリン等を透析ごとに使用するため、出血のリスクがあります。こまめなモニタリングでの微調整が一番ではないでしょうか。感染による抗菌薬の使用の確認も必要です。以前、整形でロキソニンが処方され、INRが延長した方もおられました。現在、透析患者へのWf投与は脳梗塞やAfで推奨されていないように思います。(一部改変)

https://aifaq.aipharma.jp/user/#/searchBulletinBoard?id=1647&timestamp=1738457684525


回答まとめ

透析患者へのワーファリン投与は、出血リスクと有効性を考えることが重要な課題となっています。透析時の抗凝固薬使用による出血傾向があるため、PT-INRの目標値は非透析患者(2.0~3.0)より低い1.5~2.0での管理が推奨され、日本透析医学会のガイドラインでもPT-INR<2.0とされています。

重要なポイントとして、食事摂取状況の確認が挙げられます。透析患者では食事制限や食欲低下により、食事の量と質にばらつきが生じやすく、これがワーファリンのコントロールに大きく影響します。また、内服薬(特に抗菌薬やNSAIDs)や透析時投与薬剤の変更による相互作用にも注意が必要です。

モニタリングについては、透析患者は定期的な採血機会が多いという利点を活かし、0.125~0.25mg単位での細かな用量調整が可能です。ただし、さまざまな報告では透析患者の脳梗塞やAFに対するワーファリン投与の有効性には疑問が投げかけられており、特に高齢者での脳卒中リスク増加が報告されています。そのため、個々の患者のリスク・ベネフィットを慎重に評価したうえでの投与判断が重要とされています。

下記は報告の一部です。

非透析患者の心房細動(AF)では血栓性合併症予防としてワーファリンが推奨されていますが(Circulation 114:e257-e354, 2006)、透析患者への使用については、出血リスク上昇や血管石灰化促進の懸念から議論が続いています。Wiesholzerらは、ワーファリンやアスピリンを服用している透析患者で脳卒中発症率が8.3倍増加したと報告されています(Am J Nephrol 21:35-39, 2001)。一方、Abbott KCら(BMC Nephrol 4:1-10, 2003)は、透析患者のAF入院例においてワーファリン服用が死亡リスクを低下させたと報告しており、一定の見解には至っていません。Chan KEら(J Am Soc Nephrol 20:2223-2233, 2009)の研究では、ワーファリン使用患者で脳卒中リスクが1.93倍高く、特にPT-INRモニタリングが不十分な場合には2.79倍に増加しました。

DOPPS研究(Kidney Int 77:1098-1106, 2010)でも、透析の高齢患者でワーファリン服用による脳卒中リスク増加が報告されています。しかし、特定の患者群(TIA/脳梗塞の既往、左房内血栓、人工弁置換術後、僧帽弁狭窄症合併など)ではワーファリンの有用性が示唆され(Chest 136:1128-1133, 2009)、その場合はPT-INRを<2.0に維持することが推奨されています。

参考 : 血液透析患者における心血管合併症の 評価と治療に関するガイドライン 透析会誌44:385, 2011より

参考
AF合併透析患者の抗凝固療法では、DOACsと比較してワーファリンが小出血、全身性塞栓症、死亡の低減と関連する
Front. Cardiovasc. Med.  09, 2022 Vol.9 847286. PMID : 35757350
血液透析患者における心血管合併症の 評価と治療に関するガイドライン 透析会誌44:385, 2011
会員登録していただくとできること
記事を全文閲覧できます。 記事を全文閲覧できます。
記事の全文が検索できます 記事の全文が検索できます。
週1回メルマガが届きます 週1回メルマガが届きます
質問投稿することができます 質問投稿することができます

関連記事

透析患者に対するワーファリンの用量調節について

【質問】透析患者にWfが導入されたのですが少量から開始していても急にINRが3〜4と過延長になったりと用量調整が定まらないことが多く上手くいきません。 透析患者に対するワーファリンのエビデンス、用量調整の...

透析による除去効率を考慮したラコサミドの投与方法は?

【質問】ラコサミドの透析時の用量について。 「血液透析を受けている末期腎機能障害患者さんには、成人は1日最高用量を300mg、小児は1日最高用量を25%減量とするなど慎重に投与してください。また、血液透析を受...

【Q】アリクストラ皮下注は透析患者に使用できるか?

【A】アリクストラ皮下注(フォンダパリヌクスナトリウムキット)は透析患者には禁忌であり、使用不可である。 Ccr ≧ 50 2.5mg分1 30 ≦  Ccr < 50 2.5mg分1または 1.5mg分1 20 ≦ Ccr < 30  1.5mg分1 Ccr &l...

【Q】セフェピム (マキシピーム) の透析患者での投与量は?

【A】0.5g / 日を1日1回投与することが望ましいと考えられる。透析日には透析後に投与する。 血液透析 0.5g 24時間毎 血液透析により本剤の血中濃度が低下するので、本剤の投与は透析後に行うこと が望ましい (参...

【Q】透析患者におけるアセトアミノフェンの投与量は?

【A】以下の記載より、常用量で投与間隔を2倍での投与が推奨される。 透析患者に対して常用量は可能であるが、投与間隔を2倍にする。 (参考 : 改訂3版 腎機能別薬剤使用マニュアル)   減量基準はないが、高...

新着記事

亜鉛製剤による銅欠乏リスク:血清亜鉛値が正常でも銅の定期測定は必要か?

【質問】貧血傾向がある方で、ポラプレジンクや酢酸亜鉛などの亜鉛補充の薬を長期的に内服していた場合の銅欠乏の副作用についてどのようにフォローすべきなのかご教示ください。 採血で亜鉛の項目を確認すること...

欠食はSERMの血栓症、活性型VD3の高Ca血症リスクを高めるか?

【質問】欠食は、SERMと活性型VD3製剤の副作用リスク因子となるか。 SERMの静脈血栓症、活性型VD3製剤の高カルシウムの副作用について。 1食抜くと400mlの水分不足となると言われていますが、摂取水分の減少の面...

CLAPでのゲンタマイシン投与、腎機能低下時は全身投与と同じように減量する?

【質問】骨軟部組織感染症に対する局所高濃度抗菌薬灌流療法においてゲンタマイシンを使用する際、腎機能低下がある場合の用量設定はどのように考えればよろしいのでしょうか。全身投与と同じ考え方となりますか...

新着記事をもっと見る