ARB同士の併用の意義はあるか??

【質問】ARB同士の併用 疑義照会したが継続投与となった。併用する意義はあるか。どんなことが考えられますか?

【回答】ARB薬の重複服薬は同種同効薬の併用となり、推奨されていません。これらを複数併用しても効果の増強は限定的である一方、副作用リスクが増加します。主な副作用リスクとしては高カリウム血症、腎機能悪化、過度の血圧低下などがあります。

大規模試験(ONTARGET試験 N. Engl. J. Med. 358, 1547–1559 (2008). など)では、ACE阻害薬とARBの併用は、腎不全や高カリウム血症のリスクが増大し、臨床的メリットは乏しいことが示されています。ARB同士の併用についても同様の懸念があります。

臨床現場では、高血圧治療で目標値に到達しない場合、別系統の薬剤との併用が推奨され、ARB同士の併用は通常されていません。心不全や糖尿病性腎症の治療においても、別系統薬の追加や既存ARBの増量が有効とされています。

ARBの重複服薬は効果の上乗せは少なく、副作用リスクが高まるため、原則として避けるべきと考えられます。


複数のARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を同時に服薬することは、同種同効薬の重複服薬にあたります。代表的なARBにはバルサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタンなどがありますが、これらはいずれもRAA系(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)を遮断するという同じ作用機序です。。そのため、一般的には2種類のARBを併用しても効果が二重になるわけではなく、副作用のリスクの増加がしていまいます。例えば、メタ解析では複数のRAS阻害薬を併用すると高カリウム血症や腎機能悪化、低血圧などの有害事象が単剤より増加し、一方で死亡率などの改善効果は認められなかったと報告されています。

ARB同士を併用してもアンジオテンシンIIのAT1受容体遮断効果が重複するだけで、単剤以上の有意な降圧効果や臓器保護効果は期待しにくいとされています。かつては「RAS系をより完全に抑制すれば、血圧や蛋白尿をさらに改善できるのでは」との考えからACE阻害薬+ARBといったデュアルブロッケード療法が試みられた経緯があります。しかし、大規模試験(ONTARGET試験N. Engl. J. Med. 358, 1547–1559 (2008).)で併用により腎不全や高カリウム血症のリスクが増大し、心血管イベント抑制などの臨床上の追加メリットは乏しいことが示されました。ARB同士の併用に関しては大規模試験自体ほとんどありませんが、作用機序が同じである以上、効果の天井効果に達してしまい、むしろ有害事象だけ増える可能性が高いと考えられます。

主なリスク要因としては以下が挙げられます(単剤でも注意が必要ですが、併用でリスク増大):

  • 高カリウム血症のリスク増加 –特に腎機能が低下している患者や高齢者では重篤な不整脈につながる恐れがあります。
  • 急性腎不全・腎機能悪化 – 糸球体濾過圧の低下が過度になることで腎不全のリスクがあります。ACE阻害薬とARBの併用では急性腎障害や透析導入リスクが増加した報告があり、ARB同士でも注意が必要です。
  • 過度の血圧低下や起立性低血圧 – 血管拡張効果が重複し、特に高用量同士では急激な血圧低下やめまい、ふらつきの副作用が生じる恐れがあります

各臨床状況での併用の有用性について

高血圧治療では、目標血圧に達しない場合に併用療法を行うことはありますが、異なる作用機序の薬剤を組み合わせるのが原則です。例えば「ARB+利尿剤」「ARB+Ca拮抗剤」などが推奨され、ARBが効かないからといって別のARBを追加するのはみかけません。。日本高血圧学会ガイドラインでも、ARBとARBの併用は推奨されないはずです(ACE阻害薬との併用すら推奨されません)。したがって高血圧の場面でARB二剤併用に意義はなく、むしろ別系統薬への変更や増量検討が本道と言えます。

心不全の場合、ACE阻害薬またはARBは一剤が標準治療です。ACE阻害薬の代替としてARBを使うケースはありますが、ACE阻害薬とARBの併用は過去の研究で腎機能悪化や高カリウム血症のリスク増大が示され、現在は推奨されません。ARB同士の併用も同様に有害性が懸念されます。心不全で予後改善効果を高めたい場合、追加すべきはβ遮断薬やMRA(アルドステロン拮抗薬)であり、ARBを重ねる意味はありません。むしろ、近年はARNI(エンレスト®など、ARBとネプリライシン阻害薬の合剤)のように作用機序の異なる薬剤との組み合わせが研究されています。いずれにせよRAA系の二重遮断は心不全領域でも原則避けるべきです。

糖尿病性腎症や蛋白尿に対しては、ACE阻害薬/ARBで尿蛋白を減らし腎保護を図るのが定石です。ただ、強力な蛋白尿抑制を狙ってACE阻害薬とARBを併用したり、ARBを二剤使ったりした試みも一部にありました。確かにRAA系抑制を強化すると尿蛋白がさらに減少することは報告されていますが、それによる腎予後や死亡率の改善は確認されていません。むしろ併用群で重大な副作用が増えたため(例えばALTITUDE試験では併用群の有害事象増加により早期中止)、現在では併用は避けるべきとの結論です。したがって糖尿病腎症でも、ARBを増やすよりは既存の一剤を最大耐用量まで増量する、他の降圧薬やSGLT2阻害薬など腎保護に有用な薬剤を追加する、といった対応が望ましいです。

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