【質問】希釈は陽圧操作厳守、分注は陰圧操作と手順書に記載されているのを拝見しました。 無菌調剤では基本陰圧操作しか使わないと思っていたのですが、陰圧操作による針内のデッドスペース分の誤差を考えるなら通常の調剤でも陽圧操作をしなければならないことになります。 全量何mL以下のときは陽圧操作厳守、などなにか使い分けの基準があるのですか?(誤差±10%など)
【A】調剤指針において「バイアル内を陽圧にして、バイアルから薬液を採取する」と記載されています。
一方で、抗悪性腫瘍薬の場合は「バイアル内を陽圧にしてはならない」と抗がん剤調整マニュアルに記載されています。
シリンジ針内には薬液が残存します。シリンジ針部分はシリンジで計量できる部分として含まれていません。そのため、バイアル内の薬剤を正確に希釈するには、「シリンジ針先まで薬液を満たし、ワンプッシュで薬液を注入する」方法が適していると考えられます。ただし、この方法はバイアル内が陽圧になってしまうため、バイアル内の薬液が噴出するリスクが生じてしまいます。
あるいはシリンジ針先まで薬液を入れないようにして薬液を量り取り、注射針内に薬液を残さないように注入する方法も誤差が生じないと考えられます。
一方で、「シリンジ針先まで薬液を満たした状態で、注射針内に薬液を残さないように注入する方法を行う」と、シリンジ針内の薬液分が余分に注入され、シリンジ針内の薬液分だけ、バイアル内に多く注入することになってしまいます。この方法は空気と薬液を置換して注入できるため、バイアル内の陽圧を回避し、噴出リスクが減ります。
誤差をどこまで許容するかの議論になりますが、シリンジには許容差があり、「公称容量5mL未満のシリンジ±5%」「公称容量5mL以上のシリンジ±4%」とされています。
例 5mLのシリンジ+23Gシリンジ針
・5mL±0.2mL → 許容差 4.8〜5.2mL.
・23Gシリンジ針内の薬液量0.1mL
であり、シリンジ針内の薬液量はシリンジ本体の許容差内に入っています。
まとめると、薬液が噴出するリスクと正確さを考慮しながら、状況に応じて、医療現場の裁量に任せることが必要なのではと思います。
ルアーロックシリンジ10mL
・25G注射針 0.09mL
・23G注射針 0.10mL
・21G注射針 0.11mL
・18G注射針 0.14mLルアーロックシリンジ20mL
・25G注射針 0.09mL
・23G注射針 0.10mL
・21G注射針 0.11mL
・18G注射針 0.15mL
公称容量5mL未満のシリンジ±5%
公称容量5mL以上のシリンジ±4%・1mL ±0.05mL
・2mL ±0.10mL
・5mL ±0.2mL
・10mL ± 0.5mL
・20mL ±0.6mL(抗がん剤調整マニュアル 第3版)
以下に詳細を記載します。
バイアルからの薬液の採取
1. バイアルのキャップを外し、ゴム栓に消毒用アルコールを噴霧する。
2. 採取する液量より若干少ない空気をシリンジに吸った後、注射針をバイアルのゴム栓の刺入部にゴム栓に対して垂直に差し込む。
3. 針を浅く刺したまま、プラジャーを押し込みバイアル内を陽圧にした状態で、バイアルを倒立させる。(通常、バイアル内は陰圧または常圧となっている)
4. プランジャーを離すと薬液がシリンジ内に流れ込む。次いで、ゆっくりプラジャーを引いて、投与量の液量を採取する。
5. 省略
(調剤指針 増補版 第十二改訂)
上記のように、調剤指針にはバイアル内を陽圧にして、バイアルから薬液を採取すると記載されています。
抗悪性腫瘍薬の場合
バイアル内が陰圧になっている薬剤以外は針穿刺・抜針時に溶液がエアロゾルとして飛散しやすい状態にある。エアロゾルの飛散汚染を防ぐため、バイアル内への溶解液注入時、バイアルからの薬液採取時および輸液製剤への薬液注入時は、バイアル内および輸液製剤内を陰圧の保ち、バイアル内を陽圧にしてはならない。
(抗がん剤調整マニュアル 第3版)凍結乾燥製品に溶解液を注入する場合には、バイアル内を陰圧にして溶解操作を行う。
(調剤指針 増補版 第十二改訂)