【質問】1型糖尿病患者において、1日4回のインスリン注射の合計単位数が100を超えてなんとかコントロールできている場合、これを継続していても害はないのでしょうか?(高インスリン血症など) トレシーバの添付文書には「4〜100単位/日」とありますが、それを超えるケースでは低血糖以外にどのような注意点があるのか、(外来で)どこまで増やせる範疇なのか、教えてください。
【A】
・現在、国内で使用されているインスリン製剤の添付文書には「4〜80単位/日もしくは4〜100単位/日」と記載されています。しかし、「用量を超えて使用することがある。」と追記されており、「4〜80単位/日もしくは4〜100単位/日」を超えた単位数を投与するケースも考えられます。
・インスリンの一般的な副作用として「頭痛、めまい、糖尿病網膜症の顕在化・増悪、注射部位反応 (疼痛、血腫、結節、熱感等)、体重増加」などが挙げられ、高用量インスリン使用時においても同様に注意が必要です。外来診療下において、どこまでインスリンの単位数が増やせるかは明確にはされておりません。経験測的には1型糖尿病は1日40単位までコントロールできるケースが多いと言われています。
・高用量インスリンでも血糖コントロールが上手くいかない場合は、患者の手技の確認、別のインスリンへの切り替えることも考慮する必要がありそうです。
・2型糖尿病患者においては、高用量インスリン投与下において血糖コントロールが上手くできない患者に対して、GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドを追加することで改善した報告もあります。
・高インスリン血症により高尿酸血症や冠動脈硬化、アルツハイマー型認知症のリスク上昇が報告されていますが、明らかにはされていません。
詳細を以下に記載します。
4〜100単位
・アピドラ注
・ノボラピッド注
・ノボラピッド70ミックス 注
・ノボリンR注
・ヒューマログ注
・ヒューマリンR注
・フィアスプ注4〜80単位
・イノレット30R注
・トレシーバ注
・ノボラピッド30ミックス 注
・ノボラピッド70ミックス 注
・ノボリン30R注
・ノボリンN注
・ヒューマリン3/7注
・ヒューマログミックス25注
・ヒューマログミックス50注
・ライゾデグ注
・ランタスXR注
・ランタス注
・レベミル注(各社 添付文書)
トレシーバ注フレックスタッチ
通常、成人では、初期は1日1回4~20単位を皮下注射する。投与量は患者の状態に応じて適宜増減する。他のインスリン製剤を併用することがあるが、他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1日4~80単位である。但し、必要により上記用量を超えて使用することがある。
→「上記用量を超えて使用することがある。」と記載されており、80単位以上の投与も可能であるということが明記されています。
トレシーバ注フレックスタッチ
1型糖尿病患者を対象とした国際共同治験 第III相試験
インスリン投与量の合計(単位/日) (海外含む)
投与後 1 週 50±22(n=298)投与 26 週 61±36(n=301) (平均値±標準偏差)
インスリン投与量の合計(単位/日) (日本人)
投与後 1 週) 41±18(n=124)投与 26 週(LOCF) 45±21(n=124)
(トレシーバ注フレックスタッチ 審査報告書)
→ 61±36(n=301) ‥ 25〜97単位の間に約70%。約100単位まで投与された被験者がいることがわかります。
投与後 6 ヵ 月(26 週)時における本剤群の1日の総インスリン投与量 (最小値~最大値) は、EFC12449 試験で17.1~125.7単位、EFC12456 試験の日本人集団で25.4~96.1単位、EFC12512試験の投与後6ヵ月(26 週)時における本剤群の1日の本剤投与量(最小値~最大値)は3.0~72.2単位であり、ランタスの添付文書の「その他のインスリン製剤の投与量を含めた 維持量は、通常1日4~80単位である。ただし、必要により上記用量を超えて使用することがある。」の範囲内であると考えられた。 (ランタス XR 注ソロスター 審査報告書)
→臨床試験において、ランタスXR注ソロスター17.1~125.7単位 / 日と記載されており、100単位/日超えて投与された患者がいます。
副作用
0.3から5%未満
頭痛、めまい、糖尿病網膜症の顕在化又は増悪、注射部位反応 注) (疼痛、血腫、結節、熱感等)、リポジストロフィー(皮下脂肪の萎縮・肥厚等)、血中ケトン体増加、体重増加
(トレシーバ注フレックスタッチ 添付文書)
・高インスリン血症は高尿酸血症と関連を認めた (人間ドック 27 (3) , 75-82, 2012)
・血糖が正常であっても高インスリン血症であれば、高尿酸血症が重症であった。(糖尿病 33 (10) , 787-792, 1990)
・糖尿病の患者においてアルツハイマー型認知症、血管性認知症がリスク因子である。血管疾患とグルコース、インスリン、アミロイド代謝のよるものと考えられるが、機序は明らかにはされていない。(Lancet Neurol 5 (1), 64-74, 2006)
・インスリン抵抗性と高インスリン血症が中枢神経系の低インスリン状態を惹起し、その結果、脳内への β アミロ イドの蓄積を助長して アルツハイマー型認知症発症に関わる機序が提唱されている。(日老医誌 47, 385-389, 2010)
・高用量インスリン投与で効果が得られない2型糖尿病患者へのGLP-1受容体作動薬リラグルチドの追加は血糖コントロールの改善に有効である(JAMA Intern Med. 176 (7), 939-947, 2016)
→高インスリン血症は高尿酸血症、高尿酸血症、アルツハイマー型認知症のリスク因子となりえると報告されています。