【質問】小児における「五苓散注腸」という手法を拝見しました。そこで気になったのですが、五苓散以外の漢方薬や内服薬についても、経口投与困難な時に注腸されるケースはあるのでしょうか?
【A】漢方の注腸についてはいくつか報告があり、坐剤を作成するケースもあります。五苓散の注腸・坐剤の有用性についてはドンペリドン坐剤と比較した報告などもあり、漢方薬の中では最も多く報告されています。(小児の嘔吐に対する五苓散坐剤の効果 -ドンペリドン坐剤との比較-, 日本病院薬剤師会誌, 34, 1173-1176, 1998)
五苓散は水分代謝調節の機能をもった白朮、沢瀉、猪苓などの成分が含有されており、悪心、頭痛、めまい、下痢、腹痛、発熱などに用いられ、小児で頻発する急性胃腸炎から下痢などの症状に効果があると考えられます。
また、消化器癌終末期患者で、利尿剤を使用後も全身の浮腫が改善しなかった際に、五苓散坐剤の使用後に改善したと学会にて報告されています。(第70回 日本消化器外科学会学会)
五苓散以外には、イレウスに対して大建中湯や厚朴生姜半夏甘草人参湯の注腸を行い改善した症例が報告されています。また、病院内の院内製剤で麻黄湯坐剤(小児用)を作成しているケースもあり、注腸・坐剤については様々な漢方成分で使用されています。
以下に詳細を記載します。
五苓散坐剤の製法
例1 :
五苓散1.0g +ホスコH-15 (坐剤基剤)
① ホスコH-15 40〜45°C に加温・溶解
② ①に予め100メッシュで濾過した五苓散を加える
③ 攪拌し、均等に懸濁する
④ 冷却し、32°C〜35°Cに保つ
⑤ コンテナに分注する
⑥冷蔵庫に保存する
(東京小児科医会報 31, 22-25, 2012)例2 :
五苓散100g +ホスコH-15 100g →100個
規格 1g/個
五苓散を微粉化した後、溶融法による製する
(病院薬局製剤事例集)
麻黄湯坐剤
麻黄湯エキス顆粒0.5g + ホスコH-15 1.125g →1個
規格 0.5g/個
適応 インフルエンザ、その他の熱性疾患
麻黄湯を微粉末とし、加温溶解したホスコH-15に入れ攪拌する。坐薬コンテナに分注し、自然冷却後、冷所に入れる。
(病院薬局製剤事例集)
大建中湯注腸
大建中湯(ツムラ医療用エキス 穎粒:10g+微温湯100ml)の1日1回注腸投与
子宮頸癌の治療後にみられた腹部膨満感と嘔吐が主訴であるイレウスの患者に対して、大建中湯の注腸投与が有用であったと報告されている。
(大建中湯の注腸投与が有用と考えられた子宮頸癌治療後イレウスの1例. 産婦の進歩第53巻5号,,2001)
厚朴生姜半夏甘草人参湯注腸
・厚朴12g
・生姜12g
・半夏9g
・甘草3g
・人参1.5g水400mlを加え、50分間煎じて、300mlにして、1回50〜100ml、1日3〜6回注腸
麻痺性イレウス に対して厚朴生姜半夏甘草人参湯の注腸が投与が有用であったと報告されている。
(日本東洋医学雑誌 第38巻第3号 (1988) 163-169)