【Q】プロトピック軟膏は妊婦に使用可能か?

【質問】プロトピック軟膏は妊婦や授乳婦には有益性投与、ハンドブックにも情報がなかったのですが、内服ではなく外用でも血中への移行が問題になる程度あるのでしょうか?実際、使用されるケースはありますか?

【A】プロトピック軟膏の成分であるタクロリムスは妊婦に対して禁忌ではありませんが、胎盤を通過するため、有益性投与とされています。プロトピック軟膏は同成分の内服薬と比較して、血中への移行は非常に少ないため、これらを考慮した適切な判断が必要と考えられます。


添付文書の記載は?

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること。〔動物実験(ウサギ、経口投与)で催奇形作用、胎児毒性が認められたとの報告がある。ヒト(経口投与)で胎盤を通過することが報告されている。〕(プロトピック軟膏 添付文書)

→添付文書には「有益性投与」と記載されています。


2018年以前の添付文書は?

[禁忌] 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
(プロトピック軟膏 添付文書)

→[禁忌] に「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人」が記載されていましたが、2018年以降に「有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ使用すること」に変更になりました。


2018年にプロトピック軟膏の添付文書において「禁忌」から「有益性投与」に変更された理由は?

・動物による試験では、催奇形性が報告されているが、海外の疫学研究において、免疫抑制剤を投与された妊婦において胎児の先天奇形の発生率が有意に上昇したという報告はない
・国内外のガイドライン等において,妊娠中であっても使用可能な医薬品とされている
・海外の添付文書において,妊婦への投与は基本的に禁忌とされておらず,胎盤への移行が認められていること等から潜在的有益性が胎児への潜在的危険性を上回る場合にのみ投与できるとされている
(医薬品・医療機器等安全性情報 No.355 免疫抑制剤の妊婦等に関する 禁忌の見直しについて)

→経口剤の免疫抑制剤において「動物に催奇形性あり」、「ヒトにおける催奇形性の報告なし」、「海外では、妊婦に禁忌ではなく、有益性投与」の理由から国内においても「禁忌」から「有益性投与」に変更されました。


プロトピック軟膏の血中への移行は?

タクロリムス外用薬塗布によって血中にタクロリムスが検出されるが、その値は経皮吸収の違いによる個人差がある (0.1%タクロリムス塗布で一般的に1ng/ml以下)。血中への移行に起因する全身的な有害事象や毒性は確認されていない。なお、添付文書ではタクロリムス軟膏の使用に関していくつかの注意事項が示されており、本薬剤を使用するには患者に説明し、承諾を得る。
(アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018 – 日本皮膚科学会)

<潰瘍性大腸炎の場合>
通常、成人には、初期にはタクロリムスとして1回0.025mg/kgを1日2回朝食後及び夕食後に経口投与する。以後2週間、目標血中トラフ濃度を10〜15ng/mLとし、血中トラフ濃度をモニタリングしながら投与量を調節する。投与開始後2週以降は、目標血中トラフ濃度を5〜10ng/mLとし投与量を調節する。(プロトピック軟膏 添付文書)

→タクロリムス外用薬0.1%を塗布後の、血中への移行は1ng/ml以下であり、経口薬と比較して、低い濃度推移であると考えられます。(潰瘍性大腸炎の場合は、トラフ濃度は10〜15ng/mL設定されています。)


動物実験の詳細は?
ラットの妊娠前・妊娠初期、胎仔器官形成期、周産期及び授乳期に経口投与した試験では3.2mg/kg以下の投与量でいずれも催奇形作用、胎仔毒性は認められなかったが、ウサギの胎仔器官形成期に経口投与した試験では、1.0mg/kg群で胎仔に形態異常児数の増加が認められている。

また、妊婦8名(外国人移植患者:腎臓4例、腎臓/膵臓1例、腎臓/心臓1例、肝臓2例)にタクロリムスを経口投与した試験では、胎盤を通過することが認められているため、本項に記載した。(プロトピック軟膏 インタビューフォーム)

→ウサギにおいて、形態異常児数の増加が生じ、ヒトにおいても、胎盤を通過することが認められています。


プロトピック外用剤のFDAとオーストラリアにおける分類は?

FDA  (Pregnancy Category)において、【C】に分類されています。

C:Animal reproduction studies have shown an adverse effect on the fetus and there are no adequate and well-controlled studies in humans, but potential benefits may warrant use of the drug in pregnant women despite potential risks.

→【C】は危険性を否定することができない薬剤となります。動物による生殖試験では胎仔に催奇形性、胎仔毒性、その他の有害作用が示されており、ヒトでの試験が実施がない。潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合にのみに使用する。

 

オーストラリア分類 (An Australian categorisation of risk of drug use in pregnancy) において【C】に分類されています。

C:Drugs which, owing to their pharmacological effects, have caused or may be suspected of causing, harmful effects on the human fetus or neonate without causing malformations. These effects may be reversible. Accompanying texts should be consulted for further details.

→薬理作用よって、催奇形性はないが、ヒトの胎児や新生児に有害作用を引き起こす、または、引き起こす可能性がある薬剤。可逆的なこともある。


以上をまとめると、プロトピック軟膏の成分であるタクロリムスは妊婦に対して禁忌ではありませんが、胎盤を通過するため、有益性投与とされています。プロトピック軟膏は同成分の内服薬と比較して、血中への移行は非常に少ないため、リスクは低いと考えられますが、患者個々に応じた適切な判断が必要と考えられます。

会員登録していただくとできること
記事を全文閲覧できます。 記事を全文閲覧できます。
記事の全文が検索できます 記事の全文が検索できます。
週1回メルマガが届きます 週1回メルマガが届きます
質問投稿することができます 質問投稿することができます

関連記事

【Q】プロトピック軟膏は妊婦に使用可能か?

【質問】プロトピック軟膏は妊婦や授乳婦には有益性投与、ハンドブックにも情報がなかったのですが、内服ではなく外用でも血中への移行が問題になる程度あるのでしょうか?実際、使用されるケースはありますか? ...

【Q】リュープリンSR(リュープロレリン酢酸塩)とヒスロンH(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)は併用禁忌か?

【A】ヒスロンH錠200mgの添付文書にはホルモン剤(黄体ホルモン、卵胞ホルモン、副腎皮質ホルモン等)を投与されている患者には禁忌と記載がある。両薬剤ともに血栓症をおこすおそれがあり、血栓症を起こすおそれ...

【Q】妊婦 絶対過敏期と相対過敏期の期間は?

【A】絶対過敏期(妊娠成立から28日〜50日目) 催奇形性における最も危険な時期 相対過敏期(妊娠成立から51日〜84日目) 口蓋や性器の分化は続いている

新着記事

「用時懸濁」指示時における粉末服用の可否は?

【質問】ドライシロップについて。用法に用時懸濁とだけ記載ある場合は、粉のまま服用できる患者だとしても必ず水に溶かしてから服用する必要があるのでしょうか。 テオフィリンDSのように顆粒のままでも服用でき...

亜鉛製剤による銅欠乏リスク:血清亜鉛値が正常でも銅の定期測定は必要か?

【質問】貧血傾向がある方で、ポラプレジンクや酢酸亜鉛などの亜鉛補充の薬を長期的に内服していた場合の銅欠乏の副作用についてどのようにフォローすべきなのかご教示ください。 採血で亜鉛の項目を確認すること...

欠食はSERMの血栓症、活性型VD3の高Ca血症リスクを高めるか?

【質問】欠食は、SERMと活性型VD3製剤の副作用リスク因子となるか。 SERMの静脈血栓症、活性型VD3製剤の高カルシウムの副作用について。 1食抜くと400mlの水分不足となると言われていますが、摂取水分の減少の面...

新着記事をもっと見る